口腔感染症治療で患者さんをサポート

日本医科大学付属病院

口腔科(周術期)

東京都文京区千駄木

口腔感染症治療で患者さんをサポート

口腔感染症とは?

口腔(こうくう)感染症とは、口腔内細菌によって引き起こされるむし歯や歯周病(ししゅうびょう)などの歯に関連する感染症と、真菌(かび)やウイルス感染など粘膜(ねんまく)に症状が出る感染症を合わせたものをいいます。むし歯や歯周病などを放置して重症化させてしまうと、全身へと感染が広がってしまうことがあります。特に病気治療中などで体の免疫力が落ちている場合には、発熱などの症状が出て、本来の医科治療が妨げられてしまいます。口の中の汚れは肺炎の原因ともなるため、口腔内を清潔に保つことが大切です。

歯と歯肉に関する感染症――むし歯と歯周病

むし歯と歯周病は、歯垢(しこう)(プラーク)が原因で引き起こされる病気です。歯垢とは歯に付いている白っぽく柔らかい物で、食べかすではなく、密な細菌の塊です。歯垢1mgには1億以上のさまざまな細菌がいるといわれています。

むし歯は、細菌の作り出す酸によって歯が溶けてしまう病気です。進行すると、歯の奥にある歯髄(しずい)(歯の神経や血管がある場所)にまで細菌が達して、根の先から顎(あご)の骨にまで広がっていきます(図1)。治療を行わないと感染がさらに周囲に広がり、顔や首まで腫(は)れあがってしまうこともあります。

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図1 むし歯
むし歯が進行すると根の先から歯の外側にまで感染が広がります

歯周病は、歯の生え際の歯肉から始まり、歯肉が腫れ、出血しやすいといった症状が出ます。治療を行わないと、徐々に歯と歯肉の接着がはがれて歯周ポケットが深くなり、歯を支えている骨が減って歯がぐらつくようになります(図2)。どちらの病気も予防は可能ですが、罹患(りかん)した(病気になった)場合は、ごく初期を除いて自然に治ることはありません。

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図2 歯周病
歯垢が多く付着していて、歯肉に炎症が起きています

口腔感染症は口腔だけの問題ではなく、心臓や脳など口から離れた場所や、心臓の人工弁や人工関節などの体に埋め込む人工物の感染にもかかわることがあります。特に歯周病に関連する細菌や炎症にかかわる物質は、歯の周りの組織から血流に乗って、動脈硬化(どうみゃくこうか)や糖尿病などの全身状態に影響を及ぼすことが報告されています。

口腔粘膜の感染症――口腔カンジダ症など

口腔内には、歯とは関係なく粘膜に起こる感染症もあります。代表的なものは口腔カンジダ症といって、カンジダ菌というかびの仲間(真菌)が口の中で増殖して症状を起こすものです。粘膜に粕(かす)のような白斑が現れるタイプや、粘膜が赤くなるタイプがあり、痛みやひりひりするといった症状が出ることがあります(図3)。原因は、口の乾燥、免疫力の低下、吸入ステロイド薬の使用、不衛生な入れ歯の装着などさまざまです。

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図3 口腔カンジダ症
粘膜に白斑が認められます

治療では、カンジダ菌が増殖した原因をできるだけ除去します。例えば、入れ歯にはカンジダ菌が住みつきやすいため、洗うときはブラシで擦り、義歯洗浄剤を用いて清潔を保つようにします。そのうえで症状が継続する場合には、抗真菌剤を用いて治療します。口腔粘膜には、口腔カンジダ症以外にも、単純ヘルペスウイルスや帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスなどによる感染があり、小さな水疱がたくさんできて痛みなどを生じます。

口腔粘膜に症状がある場合は、口腔粘膜の感染症か、むし歯や歯周病に関連した症状なのか、またはそのほかの疾患なのかを鑑別することが必要です。

院内における口腔感染症への対応

口腔科では、医科から依頼を受けた、主に入院患者さんの歯科治療を行っています(写真)。

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写真 歯科治療の様子
歯磨き指導も行っています

全身麻酔の手術を受ける患者さんには、呼吸管理のためのチューブが口から入るため、手術中に取れてしまうようなぐらついた歯がないか、また術後に肺炎の原因となるような口の汚れが溜(た)まっていないかを確認して、対応しています。

がん治療中などの患者さんでは、免疫力が低下したときに口腔感染症が急に悪化して、痛みや熱が出ることがあります。口の中の痛みは食事摂取の妨げともなります。口腔科では、医科治療のなるべく早い段階で患者さんの口の中を確認し、口腔感染症があれば医科の主治医と連携をとりながら、患者さんに合った歯科治療を行っています。

そのほか、看護師とも協力して、入院中の患者さんの口腔ケアを行い、口腔内を清潔に保つことで口腔感染症を防ぎ、療養中の患者さんを口からサポートしています。

当科の特色 口腔科(周術期)

科名にある「周術期」とは、手術前から手術後にいたるまでの一連の期間のことを指します。当科は歯科ではありますが、この科名が示すように、当院で手術を行う患者さんや、医科の先生から依頼を受けた病気療養中の患者さんを対象としています。外来の初診患者さんは受け付けていません。

診療室はありますが、移動が難しい患者さんに対しては、ベッドサイドまで往診もしています。看護師などと連携し、歯科衛生士とともに、患者さんの全身状態に配慮した歯科診療や口腔ケアを行っています。

診療実績

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図4 医科から口腔科への依頼内容内訳(2022年度)

更新:2025.12.12