口腔がんの治療について教えてください
耳鼻いんこう科 歯科口腔外科 形成外科
口腔がんとは?
口腔(こうくう)がんとは口の中にできるがんの総称で、舌(ぜつ)がん、口腔底(こうくうてい)がん、歯肉(しにく)がん、頬粘膜(きょうねんまく)がん、硬口蓋(こうこうがい)がんなどが含まれます(図1)。これらの中で最も頻度(ひんど)の高いものは舌がんですが、口腔がんすべて合わせても全がんの1〜2%程度です。
原因は飲酒や喫煙、口腔内不衛生のほか、合っていない義歯やまっすぐに生えていない歯が舌や頬粘膜に常時当たることによる慢性的接触刺激などがあります。がんの外見は粘膜が赤くなるもの、反対に白く変色するもの、肉が盛り上がるもの、えぐれて潰瘍状(かいようじょう)になるものなどさまざまです(写真)。症状は異物感やしこり、痛み、歯のぐらつきなどです。
口内炎が2週間以上治らない |
舌の表面がザラザラしたり、硬いしこりがある |
舌や歯ぐきが「赤」や「白」に変色している |
口の中に腫れや出血がある |
食べ物が飲み込みにくくなった |
噛んだ傷が治らない |
抜歯した傷が治らない |
歯のぐらつきがある |
しゃべりにくい |
唇や舌がしびれる |
目で見ることができ、また手で触ることができるがんであるにもかかわらず、口内炎や歯肉炎と自己判断して受診が遅れる場合がしばしばあります。進行すると出血、しゃべりにくくなる、口が開けにくくなるなどの症状が出ます。診断は口腔内の視診、腫瘍(しゅよう)を採取して組織を調べる病理検査、CT・MRIなどの画像検査によります。
口腔がんの治療はどんなもの?
治療は手術が中心となります。これは口腔がんには放射線治療が効きにくいことと、口腔に放射線を当てると粘膜炎、唾液分泌低下などの副作用・後遺症が強く出ることによります。ただし、術後の補助療法として、また再発腫瘍に対しては放射線治療や化学療法もよく行われます。
手術は、取り残しを防ぐために見えているがんより5〜15mm程度広く切除し、完全に取れているかどうか(切除断端(せつじょだんたん)部分にがんが含まれていないか)を術中病理検査で確認します。頸部(けいぶ)リンパ節転移がある場合、または疑われる場合は頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)(頸部のリンパ節をその周りの組織ごと切除する手術)を行います。咽頭(いんとう)がんの場合と同様、切除範囲が大きい場合には遊離移植術(ゆうりいしょくじゅつ)で再建します(「咽喉頭がんの手術と放射線治療とは?」参照)。
遊離移植術には、欠損の大きさに応じて前腕(ぜんわん)(*1)皮弁(ひべん)、大腿(だいたい)(*2)皮弁、腹直筋(ふくちょくきん)(*3)皮弁などを用います。これらの皮弁で、口腔粘膜の代わりにするのは同じように水分を通さない(唾液が漏れない)臓器である皮膚であり、皮膚が口腔側になるように縫合します。よって皮弁再建したあとの口の中を見ると、粘膜の切除部分が皮膚に置き換わっているのが分かります。
*1 前腕:腕の肘から手首までの部分
*2 大腿:太もも
*3 腹直筋:一般的に「腹筋」として知られ、お腹の前面(肋骨の下から恥骨にかけて)にある筋肉のこと
下顎(かがく)歯肉がんで腫瘍がある部分の下顎骨をすべて切除する場合は、再建に下顎骨の代わりになる骨組織も必要です。この再建には腓骨(ひこつ)皮弁を用います。下腿(かたい)(膝から足首の部分)を支える2本の骨のうち、外側にある腓骨の一部を周囲の皮膚・筋肉・血管をつけた状態で移植します。皮膚を切除した口腔粘膜の代用になるように縫合し、腓骨を切除した下顎骨の代用になるように形を整えて残った下顎骨と接合します(図2)。口腔外科および形成外科と協同で行います。
術後は元通り食べられますか?
健康な人であれば無意識に行っている、食べ物を噛(か)む(咀嚼(そしゃく))、飲み込む(嚥下(えんげ))という動作は、口腔と咽頭の多くの器官の動きが複雑に組み合わさって成り立っており、口腔の組織を大きく切除した場合、たとえ遊離皮弁再建を行っても、すぐに元通りの食事ができるようになるわけではありません。特に舌がんの場合は、発音機能も損なわれます。
そこで口腔外科、リハビリテーション科、栄養指導部が協力して咀嚼と嚥下、発音のリハビリテーションを長時間かけて少しずつ行います。必要に応じて、義歯や硬口蓋(図1)の欠損を補うプロテーゼ(樹脂製の人工器官)も作成します。
食べ物を使って行う飲み込みの訓練では、食べるときの姿勢、1回の量、食べるペースなどを試行錯誤しながら、最も効果のある訓練法を選択します。食事も咀嚼や嚥下しやすいものから開始して、徐々に普通の食事に上げていきます。これらの訓練により、なるべく元通りの食生活に近づけるようにしています。
口腔がんは進行してから治療すると治りが悪くなるばかりでなく、切除範囲が大きくなる分、術後の咀嚼・嚥下機能低下が大きくなり、元通りの食生活が難しくなります。どのがんでもそうですが、早期治療が重要ですので、おかしいと思ったら極力早期に受診してください。
更新:2024.10.18