患者さんの目にやさしい低侵襲硝子体手術、低侵襲緑内障手術とは?
眼科
低侵襲手術・極小切開手術とは?
低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)とは、体への負担が少なく、患者さんにやさしい手術のことです。出血や周囲組織へのダメージが少なく、手術時間が短い、回復が早いなどの特徴があります。このような手術では切り開く範囲が小さいので、極小切開手術(ごくしょうせっかいしゅじゅつ)ともいわれることがあります。
どの診療科の手術でも、時代とともに低侵襲手術が行われるようになっていますが、眼科でもいろんな種類の手術が低侵襲化されています。その中でも特に、失明にいたる病気を扱う硝子体手術(しょうしたいしゅじゅつ)や緑内障手術(りょくないしょうしゅじゅつ)の分野にめざましい進歩がみられ、それぞれ「低侵襲硝子体手術」「低侵襲緑内障手術」と呼ばれています。
低侵襲硝子体手術とは?
硝子体とは眼球の中にある透明なゼリー状の組織で、眼球の形を保ち、外からの衝撃を和らげて眼球を守る役割があります。網膜(もうまく)とはアナログカメラに例えるとフィルムの役目をしている膜状の組織で、光や色を感じるための神経細胞でできています。網膜の中央部は視力にとって特に重要な部分で、黄斑(おうはん)といいます。
これらの部位に起きる主な病気には、網膜剥離(もうまくはくり)、黄斑円孔(おうはんえんこう)、黄斑上膜(おうはんじょうまく)、硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)、糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)、増殖性硝子体網膜症(ぞうしょくせいしょうしたいもうまくしょう)などがあります。
硝子体手術とは、白目に傷口を開け、そこから眼の中に細い器具を入れて、上記のような硝子体や網膜の病気を治す手術のことです(図)。この傷口の直径は20ゲージ(0.9mm)で行う時代が長年続きましたが、医療技術や機器の進歩により、近年では25ゲージ(0.5mm)や27ゲージ(0.4mm)の、より小さな傷口で行うことによって、術中術後のリスク軽減、手術時間の短縮、早期の社会復帰につながるようになりました。このように、患者さんの負担が軽減されるようになった硝子体手術を「低侵襲硝子体手術」といいます。
さらに、手術時の観察方法でも進歩がみられ、大型の4Kモニターに映し出された立体映像を見ながら手術をする「3次元デジタル手術」が行われるようになりました(写真1)。映像をデジタル化して見やすく変換することにより、少ない光量でも手術ができるため、患者さんの術中のまぶしさを軽減でき、より低侵襲な手術が可能になっています。また、術者と周りのスタッフが同じ映像を見て手術を行うことになるので、円滑な手術操作や手術教育にも大きく貢献しています。そのほかにも、広い範囲を見ながら手術ができる「広角観察(こうかくかんさつ)システム」や、直接見ることができない部分への操作を可能にする「内視鏡(ないしきょう)」も、手術を低侵襲化するために活用されています。
当科でもこれらの最新技術を用いた硝子体手術が導入されており、患者さんへのやさしい良質な医療の提供に努めています。
低侵襲緑内障手術とは?
緑内障は、視神経(ししんけい)(見たものを脳に伝える神経)が弱り、そのために視野(しや)(見える範囲)が狭くなってくる病気です。初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行して見えない部分が中心に及ぶと視力が大きく低下します。国内では失明の原因1位の病気で、40歳以上の5%が緑内障であるとされています。弱ってしまった視神経は元に戻りませんので、緑内障で低下した視力を回復させることはできません。
緑内障の治療としては、眼圧(がんあつ)(目の内圧)を下げて進行を遅らせることしかありません。点眼などによる治療で眼圧が下がらない場合には、手術が必要となります。このような緑内障手術の中でも近年発展してきたのが、「低侵襲緑内障手術」です(写真2)。
従来の緑内障手術とは異なり、この低侵襲緑内障手術では白目を切り開く必要がないので、手術時間の短縮、異物感の軽減、早期社会復帰が可能になりました。そのため当科では、より早期の緑内障患者さんにも手術をお勧めし、病状の進行を遅らせるよう努めています。また、低侵襲緑内障手術は白内障手術との相性が良好ですので、緑内障・白内障同時手術も積極的に行っており、患者さんの負担軽減に役立っています。
すべてが低侵襲でできますか?
手術方法の発展により、低侵襲で行うことができる場合がかなり増えてきました。ただし、治療が難しい場合には従来の手術で行うことがあります。患者さんごとに病状が異なりますので、詳しくは各医療機関で相談してください。
・眼科の手術でも、低侵襲化・小切開化が進み、患者さんの負担が少なくなってきました。
・特に硝子体手術や緑内障手術の分野で低侵襲手術が発展してきました。
・低侵襲でリスクが少ないため、病状が早期でも手術されるようになってきました。
更新:2023.08.27