冬の感染性胃腸炎:ノロウイルス感染症の特徴と予防対策

メディカルブレイン編集部

感染性胃腸炎は、ウイルスや細菌などのさまざまな病原体が原因となる疾患です。その中でも、特に冬季に増加するのがノロウイルス感染症です。
今回は、感染性胃腸炎、特にノロウイルス感染症について詳しく解説していきます。

感染性胃腸炎とは

感染性胃腸炎は、ウイルスや細菌などの病原体が腸の粘膜(ねんまく)に感染し、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)などの症状を引き起こす胃腸炎の総称です。

感染した場合、健康な人は通常軽症ですが、乳幼児や高齢者は注意が必要で、嘔吐物による窒息や誤嚥(ごえん)性肺炎、脱水症状などを起こして、病状が重症化することがあります。

感染経路は主に以下の2つです。

  • 病原体が付着した手で口を触ることによる感染(接触感染)
  • 病原体に汚染された食品をとることによる感染(経口感染)

また、感染性胃腸炎は「胃腸風邪(かぜ)」「おなかの風邪」と呼ばれることもありますが、風邪の症状(鼻水、(せき)など)はほとんどありません。

原因となるウイルスの種類

感染性胃腸炎の原因となるウイルスの種類についてまとめました。

原因病原体 ノロウイルス アデノウイルス ロタウイルス
潜伏期 24~48時間 3~10日 2~4日
かかりやすい年齢 全年齢 子どもに多くみられる 0~5歳くらい
流行期 年間を通してあるが、11~1月に特に多い 年間を通してあるが、涼しく乾燥した時期に多い 2~5月ごろ
症状 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛。発熱することもある 吐き気、下痢、嘔吐、腹痛、微熱、気分不良。乳幼児で重症になることもあるが無症状の人もいる 嘔吐や水のような下痢(白色便)、腹痛、発熱。他のウイルス性胃腸炎と比べると重症の脱水症状になり入院治療を必要とすることがある
特徴 ほとんどが軽度で、これらの症状が1~2日続いたあとに治癒する 症状がある期間は1週間以上 通常3~7日で回復し、乳幼児には任意接種のワクチンがある

冬に増加するノロウイルス

感染性胃腸炎の中でも、ノロウイルス感染症は寒くて乾燥した冬に増加します。特に11月から1月は注意が必要な時期です。

感染経路

感染経路はほとんどが経口感染で、人から人への感染力が非常に強力です。具体的な感染経路は以下のようなものが考えられます。

  • ノロウイルスが大量に含まれる感染者のふん便や嘔吐物から、人の手などを介して二次感染する場合
  • 家庭内、保育園、幼稚園、学校などの人が接触する機会が多い場所で、飛沫(ひまつ)感染する場合
  • 調理する人が感染しており、その人を介して汚染された食品を食べた場合
  • 生あるいは十分に加熱調理されていない汚染された二枚貝を食べた場合

症状

主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。発熱することもありますが、ほとんどが軽度です。通常はこれらの症状が1~2日続いた後に治癒(ちゆ)し、後遺症はありません。また、感染しても発症しない場合もあります。

ただし、体力のない乳幼児や高齢者などは重症化したり、嘔吐物を誤嚥することによる誤嚥性肺炎や、(のど)に詰まらせて窒息する場合などがあるため、十分な注意が必要です。

治療

現在、ノロウイルスに対する特効薬は存在しないため、治療は吐き気止めや整腸剤などの対症療法に限定されます。下痢止めの薬は、病気の回復を遅らせることがあるため、慎重に使用する必要があります。通常、症状は1~2日で改善し、重症化することはまれですが、症状が重く下痢が続く場合は、医療機関で診察を受けるようにしてください。

症状の継続期間は短いので、安静にして脱水症状を防ぐためにできるだけ水分を補給することが重要です。吐き気がある時は無理に食事はとらず、症状が落ち着いてから、お(かゆ)などの消化の良い食事を徐々にとるようにしてください。

特に、体力のない乳幼児や高齢者は、脱水症状や体力の消耗を防ぐために、水分と栄養を補給することが重要です。症状が重い場合には、医療機関で点滴などの治療が必要になることもあります。

また、症状が治まっても、感染後1か月程度は便にウイルスが排出されるため、手洗いなどの対策を徹底することが重要です。

予防対策

ノロウイルス感染症の予防対策について、日常の対策と周囲に感染者がいる場合の対策に分けてまとめました。

【日常の予防対策】

①最も有効な予防対策は“手洗い”
  • トイレの後、帰宅時、調理前、食事前には石けんを使って流水で手を洗いましょう。ノロウイルスにはアルコール消毒はあまり効果がありません。
  • タオルの共用は感染の拡散を防ぐためにやめましょう。
②食品を十分に加熱、洗浄
  • ウイルスに汚染されている可能性のある食品は、中心温度85~90℃で90秒以上加熱しましょう。野菜・果物など生で食べる食品は、十分に洗浄しましょう。
③調理器具の洗浄、消毒を徹底

【周囲に感染者がいる場合の二次感染予防対策】

①ふん便や嘔吐物の適切な処理
  • ふん便や嘔吐物を処理する際には、使い捨ての手袋、マスク、ガウンなどを着用し、感染を防ぎましょう。
  • 汚染された床は速やかに消毒液を使用して清掃しましょう。その際、外側から中心に向かって拭き取り、汚染を広げないように注意しましょう。
②感染者が接触する場所の消毒
  • ドアノブ、トイレの水洗レバー、便座など、感染者が接触する場所を消毒液を浸したペーパータオルで消毒しましょう。
  • 感染者の衣類やリネン類は、ウイルスが飛び散らないように静かにもみ洗いし、熱水洗濯(85℃1分以上)するか、消毒液に浸します。
③感染者は最後に入浴
  • タオルは共用しないようにしましょう。
  • 毎日、風呂の水を交換し、浴槽、床、洗面器、椅子などを洗浄しましょう。

消毒液の作り方

塩素系漂白剤を希釈することで簡単に消毒液を作ることができます。
(原液濃度により目的の濃度より若干濃くなる場合があります)

おう吐物・ふん便が付いた場所、物の消毒用は0.1%消毒液。トイレのドアノブ、水栓レバー、便座、衣類、食品具等の消毒用は0.02%消毒液。

<使用上の注意点>
  • 塩素系漂白剤容器の「使用上の注意」を必ず確認し、効果が弱まるため作り置きはしないでください。
  • 誤飲、誤使用を防止するため、希釈後の容器に「消毒液」などと記載しておきましょう。

更新:2023.11.09