被災地での生活で、心身の健康を守るために知っておきたいこと

メディカルブレイン編集部

豪雨や台風などによる水害に、地震…。近年、国内ではこのような災害に遭う地域が増えています。避難所や車内での生活を余儀なくされた場合は、心身両面において健康へのさまざまな影響が懸念されます。被災地で生活を続けるうえで、気を付けたいことをまとめました。

生活・衛生面で注意したいことは?

脱水状態を防ごう

災害によって下水道が被害を受けると、復旧まで時間がかかってしまうケースが見られます。トイレが使えなくなることに加えて被災によるさまざまなストレスがた溜まることで、水分の摂取量が減りがちになります。このような場合、特に気温が高い日には脱水状態になりやすくなってしまいます。

脱水状態の自覚症状としては、口の渇きや体のだるさ、立ちくらみなどが挙げられます。脱水状態を放置していると食欲低下や脱力、意識障害に血圧低下といった症状につながり、さらには尿路の感染症や心筋梗塞(しんきんこうそく)の原因にもなってしまいます。夏場だと熱中症の危険性もあります。

特に高齢者は自覚症状に気付きにくいため、できる限り小まめに水分をとることが大切です。

避難所の内外を清潔に保とう

避難所や車内などで避難生活を行う場合は定期的に掃除を行いましょう。避難生活が長期に及ぶと、布団や毛布などにダニが繁殖してしまうことも。できるだけ布団や毛布などは天日干しを行うことをおすすめします。

また室内だけではなく、避難所周辺のゴミ捨て場や水たまりも気温が高くなると蚊やハエが発生しやすくなりますので、要注意です。お互いに声を掛け合い、避難所内だけではなくゴミ捨て場までを含めた避難所全体の清掃を定期的に行うことで、蚊やハエの発生を抑えられます。被災直後は自治体によるゴミ収集が一時ストップする場合があります。そんなときは、ゴミを避難所外の閉鎖された場所に隔離して管理するようにしましょう。

避難生活では、食品の取り扱いにも注意が必要です。感染症予防のために調理や食事の前に可能な限り手洗いを行うのはもちろんですが、下痢や腹痛、嘔吐(おうと)や発熱などの症状や手に傷がある場合も、食品を取り扱うことは避けるのが望ましいです。提供された食料は冷暗所で保管し、調理された食事は早めにいただくのがよいでしょう。

水分補給をする人と布団を干す人のイラスト

病気から身を守るために

感染症を予防しよう

避難所での集団生活が長期間にわたってくると、衛生状態が悪化するのと同時に体力の消耗により免疫力が低下することで、インフルエンザなどの呼吸器感染症や感染性胃腸炎などの消化器感染症が流行しやすくなってしまいます。できるだけ小こまめに手洗いを行い、もし可能ならば擦り込み式エタノール剤やウエットティッシュを使用するのもおすすめです。

また、発熱や(せき)などの症状がみられる場合は、たとえ症状が軽い場合でも流行を防ぐためにマスクを着用しましょう。またマスクは、被災地でかかってしまう恐れのある塵肺(じんはい)の予防にも効果的です。

被災地では、倒壊した家屋やビルのコンクリートや断熱などに用いられた壁材、あるいは土砂などが乾燥して「粉塵(ふんじん)」と呼ばれる細かい粒になって大気中に舞っていることがあります。塵肺とは、この粉塵を長い期間吸い込み続けた結果、肺に蓄積することによって起こる肺疾患のことです。塵肺は初期症状がなく気付かない間に進行し、完治させる方法もない恐ろしい病気です。塵肺を予防するためにも、マスクは重要なのです。

被災地で気を付けたい病気はほかにも

被災地での生活で注意したい病気は、ほかにもあります。代表的なものが、破傷風とエコノミークラス症候群の2つです。

破傷風は、土の中に存在する破傷風菌が主な感染源の1つになります。被災地では瓦礫(がれき)や釘でけがをすることがあり、その傷口から破傷風菌が体内に侵入してしまうのです。破傷風は、人から人には感染することはありません。厚生労働省の資料「被災地での健康を守るために」によると、2011年の東日本大震災でも震災当日のけがが原因で7名の破傷風患者が確認されているそうです。

破傷風は感染すると3~21日後に(あご)や首の筋肉にこわばりが起こり、いずれ全身のこわばりや筋肉の痙攣(けいれん)となり、重症の場合は死に至ることも。被災地でけがを負い、傷口に土などが付いた場合には、速やかに傷口を洗って医師の診察を受けるようにしましょう。

そしてエコノミークラス症候群。食事や水分を十分に摂取せず、避難所や車内などの狭い空間に長時間座り続けて足を動かさない状態が続くと、血行不良が起こって血栓と呼ばれる血の塊が生まれ、足の血管から肺などに移動して血管を詰まらせてしまい、肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)を引き起こしてしまいます。この肺血栓塞栓症は飛行機などに乗った際にも起こるため、エコノミークラス症候群とも呼ばれているのです。

エコノミークラス症候群の予防には、十分な水分をとり、定期的に足を動かすことが効果的。ただしコーヒーやアルコールには利尿作用があり、飲んだ量以上に水分が体外に出てしまうので控えましょう。

口腔(こうくう)ケアという盲点

被災地での病気の予防について考えるうえで見落としがちなのが、口腔ケアの重要性です。被災地での生活は水の不足などにより、歯磨きや入れ歯のケアがどうしてもおろそかになりがち。そこに食料・水不足による偏った食生活やストレスなどが重なり、虫歯や歯周病が起こりやすくなります。

予防にはできる限り小まめに歯磨きや入れ歯の掃除を行うことですが、水不足により歯磨きができない場合は、少量の水でぶくぶくとうがいをするだけでも効果が期待できます。また支援物資の中にはお菓子や菓子パンが入っていることもありますが、できるだけ間食はせず、食べる時間を決めて規則正しい食生活を行うことも大切です。

病気の対策イラスト

被災地でのメンタルヘルス

不安や心配を和らげるためには

大きな災害に見舞われると、程度の差はあれど誰もが不安や心配を感じます。和らげるためには、まずは睡眠や休息を十分にとることが重要です。また、「6秒で大きく息を吐き、6秒で軽く吸う」という呼吸法を朝・夕に5分ずつ行うことも、不安や心配の緩和につながります。いざという時のために覚えておくとよいかもしれません。

それでも、どうしても不安や心配が払拭(ふっしょく)できないこともあります。

  • 心配から気分がイライラし、怒りっぽくなる
  • 眠れない
  • 動悸(どうき)や息切れがして、苦しい

このような状態が続く場合は、一人で抱え込まずに身近な人、あるいは専門家に相談するようにしましょう。

子どもの心のケアは?

災害によって日常を奪われ、避難所や車内での生活を余儀なくされてしまうと、大人ですら心配や不安を感じます。そんな中で子どもたちが抱える不安は、大人が想像する以上と言っても過言ではないかもしれません。子どもたちの心を落ち着かせるために、専門家ではなく身近にいる大人ができることもあるのです。

それは、「安心感」を与えてあげることです。なるべく子どもに寄り添うように心がけ、子どもが抱える不安や心配に対しては安心感を与えるように、穏やかかつ簡潔に答えるようにすることが大切です。子どもたちの日常を取り戻すために、家族で子どもと一緒に遊ぶ時間を持てると、なおよいです。避難所生活の場合は、ほかの子どもたちとも一緒に安心して遊べるようなスペースを確保することも、子どもたちにとっても大人たちにとっても効果的です。

子どもの不安や心配が続き、回復しないようなら専門家によるカウンセリングなどの支援が必要になりますが、信頼できる大人がそばにいる状況でなければ、子どもたちの心のケアはそもそも成り立ちません。被災時には、子どもたちに「安心感」を与えられるように振る舞いましょう。

子どものそばに大人が寄り添うイラスト

毎年のように国内のどこかで発生する豪雨や台風などによる水害や地震に加え、いずれ起こるかもしれない南海トラフ巨大地震や首都直下地震…。いざという時に備えて、自分や周囲の人の心身の健康を守るために覚えておきたいですね。

更新:2024.10.14