冬の味覚・カキと、ノロウイルスによる食あたりの本当の関係
メディカルブレイン編集部
カキは、冬を代表する味覚の1つ。殻付きの生ガキや焼きガキ、蒸しガキはもちろんのこと、フライにしても鍋の具材にしてもおいしい食材ですが、食あたり(食中毒)を気にしながら食べているという人もいるのではないでしょうか?
カキによる食あたりと聞くと、思い浮かぶのがノロウイルス。今回は、カキとノロウイルスの本当の関係についてご紹介します。
なぜカキを食べるとノロウイルスに感染するの?
ノロウイルスとは?
ノロウイルスは直径30nm(ナノメートル)ほどの大きさの球形のウイルスで、人の手指や食品から口を通して人に感染し、腸管で増殖します。感染後は1~2日の潜伏期間を経て、おう吐、下痢、腹痛、微熱などの症状をひきおこします。ノロウイルスは暑さには弱いものの寒さには強いため、冬に流行しやすい特徴があります。
ではなぜ、カキを食べるとノロウイルスに感染して食あたりになることがあるのでしょうか。その理由は、カキの生態にあります。
カキの体内にノロウイルスが蓄積される理由
カキのエサは、海中のプランクトンです。周辺の海水を大量に取り込み、その中のプランクトンを吸収することで育っていきます。そのためカキには海水をろ過する働きがあり、カキ1個が1日にろ過する海水量は約400リットルともいわれています。
ただ、海中にプランクトンだけがあれば問題ないのですが、もしも感染者の排泄物などに含まれるノロウイルスが一部の河川から海に流れ込んでいた場合、カキはそのノロウイルスを体内に取り込んでしまいます。
ノロウイルスはカキの体内では増殖しませんが、海水をろ過するにつれて徐々に体内に蓄積されていくことになります。
「生食用」のカキならノロウイルスは怖くない?
「でも、生食用のカキなら心配ないんでしょう?」
このように考えている人もいるかもしれません。でも、それは誤りです。「生食用」と「加熱用」のカキの違いを見てみましょう。
「生食用」と名乗るからには、加熱用と異なる特別な育て方や鮮度なのでは…と思ってしまいますが、実は「生食用」と「加熱用」のカキの大きな違いは、生育する海域にあります。簡単にいうと、大腸菌や雑菌などが基準値以下の指定海域で育てられたカキは「生食用」で、それ以外の海域で育てられたカキは「加熱用」、ということです。
例えば、カキの生産量が国内トップ(農林水産省「2023年漁業・養殖業生産統計」)である広島県の指定海域は、以下の地図のグレーの部分になります。
このように、「生食用」のカキを育てる指定海域は生活排水が流れ込むような河川からは離れているものの、ノロウイルスが全く存在しないとは言い切れません。そのため、「生食用」のカキを食べてノロウイルスが原因の食あたりになってしまうリスクもゼロではないのです。
ノロウイルスによる食あたりの対策は?
一番の対策は、カキの生食を避けて調理時にしっかりと火を通すことです。ノロウイルスが死滅する85度~90度で、90秒以上加熱するようにしましょう。
ただノロウイルスの怖いところは、人の手指などからも口を通して感染することです。万が一家族に感染者が出てしまった場合は、自宅の手すりやドアノブ、トイレなどは特に注意して消毒・殺菌することが必要です。感染者の吐しゃ物や排泄物などにもノロウイルスが存在しますので、処理する際には十分な注意が必要です。
カキを食べてノロウイルスに感染する人は案外多くない!?
カキといえば食あたり、食あたりといえばノロウイルス、といったイメージを抱きがちですが、実際にカキを食べてノロウイルスを原因とする食あたりになってしまう人は多いのでしょうか?
厚生労働省の「食中毒統計」によると、2014年~2023年の10年間で食あたりが発生した事案は合計10,309件で、そのうちノロウイルスが原因の事案は合計2,208件と、全体の20%強程度です。食あたりの原因となるものはサルモネラ菌やカンピロバクター、ブドウ球菌といった細菌や寄生虫などもあり、決してノロウイルスだけが食あたりの原因というわけではありません。
さらに統計を見ていくと、ノロウイルスによる食あたりのうち、カキを食べたことが原因となった事案(推定含む)は2014年~2023年の10年間で合計181件。ノロウイルスが原因となった事案全体の8%強程度でしかありません。
もちろん保健所に届けられていない事案も存在するはずですが、全体から見ると、カキを食べたことによるノロウイルス感染を原因とする食あたりは、想像ほど多くはありません。むしろ人の手指によるノロウイルス感染の方が近年は多い傾向です。
ところで食あたり全体の数もノロウイルスを原因とする食あたりの数も、2020年から2021年にかけてグッと減っているのが分かります。これは、コロナ禍で外食の機会が減ったことや、消毒・殺菌が社会全体で徹底されたことが主な原因だと推測できます。つまりノロウイルス対策では、カキの加熱に気を配ると同時に人の手指からの感染にも十分注意しなければならないことをこのデータは指し示していると言えます。
また、「食中毒統計」によると、カキを食べたことが原因で、ノロウイルス以外のウイルスなどに感染したことによる食あたり事案は、2014年~2023年の10年間で4件しか報告されていません。カキによる食あたりは多くの場合でノロウイルスが原因、ということだけは間違いなさそうです。
ノロウイルスによる食あたりになってしまったら?
現状ではノロウイルスに有効な治療薬はなく、症状についての対症療法しかありません。特に乳幼児や高齢者は水分と栄養を補給しながら、脱水症状や体力の消耗が起こらないように注意が必要です。
もう1つ気を付けたいのが、下痢が続くからといって安易に下痢止め薬を服用することは避けること。無理に下痢を止めてしまうと、ウイルスが体内に留まって病気の回復が遅れてしまう場合があります。ノロウイルスの疑いがある症状が現れたら、自己判断はせずに、速やかに医療機関を受診するように心がけましょう。
更新:2024.12.20