テレパソロジー(遠隔病理診断)による病理ネットワーク

福井大学医学部附属病院

病理診断科/病理部

福井県吉田郡永平寺町

テレパソロジーとは

テレパソロジー(Telepathology:遠隔病理診断)とは、画像を中心とした病理情報を電子化し、種々の情報回線を通じて空間的に離れた2病院または多病院間で、病理組織診断・細胞診断あるいはコンサルテーション(セカンドオピニオンを求めること)などを行うことをいいます(図1)。テレパソロジーは旧厚生省(現厚生労働省)の通達により、すでに法律的に認められた医療行為となっています。また、条件付きではありますが、術中迅速(手術中に凍結させた組織からガラススライドを15分程度で作製すること)遠隔病理診断に対しては保険適用がなされています。

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図1 テレパソロジーの基本構築

当病理診断科/病理部におけるテレパソロジー

2000年5月より、当時の検査部病理と舞鶴共済病院がテレパソロジーを開始し、2007年4月からは公立小浜病院とも行っています。送信側施設(舞鶴共済病院あるいは公立小浜病院)で手術中に提出された組織から凍結ガラススライドを作製し、肉眼画像および顕微鏡静止画像を電話回線(Integrated services digital network 回線:ISDN回線=統合型デジタル通信網)により当病理部に伝送します(写真1)。その画像を当病理部のコンピューターのモニター上で観察して術中迅速病理診断を行い、その結果を送信側施設の手術を行っている医師に電話で報告します。

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写真1 送信側施設(舞鶴共済病院)のテレパソロジーに用いる機器

伝送されてくる肉眼画像および顕微鏡画像を観察する感覚は、顕微鏡でガラススライドを観察する感覚とは異なりますが、病理診断の精度が落ちることは少ないと思われます。しかし、ISDN回線では1枚の画像の伝送に約10秒かかるため、通常の術中迅速病理診断に比べると時間を要することが、欠点として挙げられています。その後、光ファイバーの導入により画像伝送速度は向上しましたが、まだ前述の欠点が解決されるには至っていません。

バーチャルスライドの開発

国内では2000年頃より、バーチャルスライド(Virtual slide:VS)の開発が進められてきました。VSとは、病理のガラススライド全体またはその一部を専用の機械(写真2)でスキャンし、高精細にデジタル画像化したものです。専用のソフトを用いることにより、コンピューターのモニター上で、倍率や位置を自由に変えて瞬時に観察することが可能となります。これまで顕微鏡とガラススライドを用いて行われていた、医学部学生の実習がコンピューターとVSによるものに変わりつつあります。当病理部には、2008年3月にVSスキャナが導入され、主にセカンドオピニオン目的で他院から持ち込まれたガラススライド(後日他院に返却する必要あり)をデジタル保存するために用いています。

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写真2 舞鶴共済病院のVSシステム機器

VSを用いたテレパソロジー

2015年4月にはVSスキャナが舞鶴共済病院に設置され、「図2」に示す機器構成でVSによるテレパソロジーを開始しています。このシステムでは、インターネット回線を用いていますが、以前より観察に要する時間が大幅に短縮されることや、より高解像度の画像が得られる(写真3)ことなどから、病理医の診断精度の向上や負担軽減に寄与しています。VSスキャナが導入されれば、県内外の常勤病理医不在の病院とも連携が可能となり、地域医療にも貢献できます。

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図2 VSを用いたテレパソロジーの機器構成図
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写真3 舞鶴共済病院から伝送された画像
(胃がん症例のがんが取り切れているかどうかの術中迅速病理標本で、標本内にがんが含まれている)

病理診断コンサルテーションへのVSの利用

現在VSは、前述したように、教育やテレパソロジーに用いられていますが、病理診断コンサルテーション(ほかの病理医にセカンドオピニオンを求めること)にも使用されています。2014年3月に福井赤十字病院病理診断科にVSスキャナが導入され、病理診断の難しい症例についてVSによる意見交換(写真4)を行っています。三重県や滋賀県などではテレパソロジーコンサルテーションネットワークが構築されており、福井県でも現在導入を検討中です。迅速かつ効率的な病理ネットワークが構築できれば厚生労働省が推進するがん医療水準の「均てん化」にも貢献でき、地域拠点病院としての大学病院の役割がさらに重要となってきます。

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写真4 福井赤十字病院から伝送された画像
(乳腺の一部切除された通常の病理標本で、がんとすべきか否かが問題となった症例。意見交換の結果、乳がんと最終判断した)

更新:2024.08.22