最も低侵襲な呼吸器外科手術-単孔式手術-肺がん、縦隔腫瘍

富山大学附属病院

呼吸器一般外科

富山県富山市杉谷

低侵襲とは、どういうことですか?

できるだけ体に負担をかけない、体にやさしい治療法を「低侵襲(ていしんしゅう)」治療といいます。呼吸器外科では肺がんなど、胸の中の腫瘍(しゅよう)に対する手術を主に行っています。患者さんのほとんどが検診でたまたま発見され、無症状です。このため、病気を治すことはもちろん、治療前と同じ生活にいかに早く戻れるかが非常に重要だと考えています。

私たちは「徹底した低侵襲治療の追求」をテーマに、1日でも早く回復するよう細心の注意を払って治療を行っています。病気をしっかりと治し、合併症がないこと、痛くないこと、苦しくないこと、そして傷はできるだけ少なく、小さく、キレイで目立たないこと、これらを常に心がけています。抜糸も必要ありません。ご高齢の方が治療を受けても、早く元気に退院できます。患者さんが早く回復することは、ご家族にとっても負担を減らすことにつながります。

具体的にどのような治療ですか?単孔式とはどういうことですか?

これまでは3~4か所の小さな穴(3mm~3cm)を開け、「胸腔鏡(きょうくうきょう)」と呼ばれる5mm~1cmの内視鏡(カメラ)による手術(「完全胸腔鏡下手術」といいます)を、年間手術の9割以上の患者さんに提供してきました(図1)。この成績は全国屈指です。年齢、性別、体格を問いません。子どもから若い女性や、ご高齢の患者さんにも安心して内視鏡手術を受けていただくことができます。

イラスト
図1 これまでの手術と単孔式手術

私たちは更なる低侵襲治療を目指し、傷1か所だけの「単孔式手術」を2014年から開始しました(図1)。当初は肺の一部を切除する肺部分切除術や肺ブラ切除術、胸に膿(うみ)がたまる病気である膿胸(のうきょう)を対象とし、2018年7月からは肺葉切除術・肺区域切除術・縦隔腫瘍切除術にも導入しています(図2)。傷が1か所なため、いくつも穴を開ける完全胸腔鏡下手術よりも、さらに体へのダメージは小さく、現代の最も低侵襲な治療です(最小侵襲)。

イラスト
図2 単孔式手術

実際、痛みは少なく、回復も早いため、術後入院期間は従来の完全胸腔鏡下手術より2日間短縮しました(肺葉切除や肺区域切除では平均術後5日目で退院します)。それだけでなく、手術室滞在時間も平均90分短くなりました。

単孔式手術は、誰でも、どこでも受けられるのですか?

単孔式手術は非常に高い技術を要するため、実施できる病院は全国で極わずかです。富山大学附属病院は単孔式手術における国内の指導的基幹施設であるため、当科の手術を学ぼうと全国から見学者が来院しています。講師として出向くこともあります。また、これまで完全胸腔鏡下手術を提供してきた、ほとんどの患者さんに実施可能です(図2)。ただし、癒着がある場合(術前に予測可能です)や、5cm以上の腫瘍では困難です。

ほかにどのようなことを心がけていますか?

手術の切開は最小侵襲である単孔式で実施していますが、体内では大きなことを行っています。このため、手術後の体に慣れるには少し時間がかかり、その間自覚症状が出現する場合があります。生じやすい自覚症状は、痛み、咳(せき)、息切れです。当科では術後症状ゼロを目指し、どのような患者さんに症状が出やすいか?どうすればゼロにできるか?を徹底的に追求し、対策を練ってきました。

痛みは睡眠薬をお飲みになる方は感じやすいということが分かっています。痛みに敏感な方でも3種類の痛み止めを使い分けることで、十分抑えることができます。このため入院中はもちろん、退院した後も安心して生活できますのでご安心ください。咳や便秘も痛みに関連する原因になるため、あわせて対策しています。

また、術後の息切れを最小限にする治療にも力を入れています。肺を切除した場合、肺活量は切除した分だけ少なくなります。特に肺がん患者さんはタバコを吸っている方が多く、COPDと呼ばれる肺機能が低下する病気も併せ持っています。COPD治療の吸入薬を処方することで、肺機能は改善し、手術で肺を切除しても影響は最小限となります。

当科では来院された患者さんとその家族はもちろん、日本全体にやさしい治療が広まるよう、さまざまな活動を行っています。私たちが行っている低侵襲治療は、入院日数が短く、合併症も少ないため、患者さんと家族だけでなく、医療者の負担軽減、医療コストの削減とあらゆる好循環につながります。日本の将来を見据えた治療を実践していくことが、日本の未来に大変重要だと考えています。

・富山大学は体に最も負担の少ない低侵襲治療「単孔式手術」を行い、かつ指導できる全国でも数少ない基幹施設です。

・子どもから若い女性やご高齢の患者さんでも、安心して治療を受けられます。

・入院期間は数日~1週間程度で済みます。

更新:2024.01.25