小児に対する腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術
藤田医科大学病院
小児外科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
鼠径ヘルニアとは
ヘルニアとは、臓器や組織の一部が組織の隙間を通って本来あるべきではない場所にはみ出している状態のことです。鼠径部(そけいぶ)(股の付け根の部分)の隙間を通ってお腹(なか)の中の臓器(腸、卵巣、脂肪の膜など)がはみ出し、鼠径部が腫(は)れるのが鼠径ヘルニアです。
小児の鼠径ヘルニアについて
妊娠3か月頃に胎児の鼠径部には腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)という腹膜(お腹の内側を包んでいる薄い膜)の袋ができます。腹膜鞘状突起は生まれるまでに閉じてなくなるのが普通ですが、閉じずに生まれてくる子もいます。そうすると、腹膜鞘状突起の中に腸などが脱出するようになり、鼠径部が腫れます。これが小児の鼠径ヘルニアです。成人にも鼠径ヘルニアはありますが、加齢により筋肉が弱くなってお腹の圧に負けてヘルニアが出るようになるので、小児とは病因が異なります。
小児の鼠径ヘルニアの手術の必要性と手術方法
鼠径ヘルニアをそのままにしておくと、嵌頓(かんとん)の危険性があります。嵌頓とは、脱出した臓器が戻らなくなって血流が悪くなった状態で、痛みや嘔吐(おうと)、血便などの症状を呈するようになります。まず、鼠径部に脱出した臓器を圧迫してお腹の中に戻す処置をするのですが、戻せない場合には緊急手術が必要となります。緊急手術になってしまうと、予定手術に比べ麻酔も含めて手術合併症が多いことが分かっています。このため、鼠径ヘルニアと診断がついたら、なるべく早くに手術を予定することが一般的です。
小児の鼠径ヘルニアの手術の要点は、ヘルニア嚢(のう)(自然に閉じなかった腹膜鞘状突起)の根元を糸で縛ってヘルニアが出てこないようにすることです。手術方法には、大きく分けて2つの方法があります。1つ目は昔から行われていた鼠径部を切開してヘルニア嚢の根元を縛る方法(鼠径法)です。もう1つが、次に説明する腹腔鏡(ふくくうきょう)と専用の針を使ってヘルニア嚢の根元を縛る腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(LPEC法)です。
LPEC(Laparoscopic Percutaneous Extra-pleural Closure)法/腹腔鏡下・経皮的・腹膜外・閉鎖法
LPEC法とは、腹腔鏡でお腹の内側からヘルニア嚢の出口(ヘルニア門)を観察し[腹腔鏡下]、皮膚を通して糸を持った針を刺して[経皮的]、腹膜の外側で[腹膜外]、ヘルニア門を縛って閉じる[閉鎖]方法です。
手術は全身麻酔で行います。まず、お臍(へそ)の下側のしわに沿って半周皮膚を切開します。ここから直径5mmの腹腔鏡を挿入するためのポート(管状の器具)と3mmの鉗子(かんし)(糸や組織をもって引っぱったりするための手術器具)を挿入するためのポートを入れて、お腹の中を観察します。ヘルニア門を確認し(写真1)、ヘルニア門の真上のお腹の外側から専用の針(LPEC針)を刺してヘルニア門の周りに糸を通しヘルニア門を閉鎖します(図、写真2)。お臍の傷は埋没縫合という糸を埋め込む縫い方をしますので、抜糸は不要です。お臍の傷は1本の細い線になるので、お臍の輪郭のように見え目立たず、針の跡は数か月でほとんど見えなくなります(写真3)。元々の術式では、腹腔鏡用ポートはお臍から、鉗子用ポートは少し離れた下腹部から挿入する術式でしたが、当科ではより傷を減らす目的で、両方のポートをお臍から挿入しています。手術時間は、片側30~40分、両側では約1時間です。
当科では、前日入院、手術、翌日退院の2泊3日で鼠径ヘルニアの手術を行っています。
LPEC法の長所と短所
鼠径法では、片側の手術の後に反対側のヘルニアが初めて脱出するようになる対側発症が約10%にみられます。LPEC法では、反対側にもヘルニア門があったときにはそのまま反対側の処理もでき、対側発症の心配がありません。これが最大の長所です。しかし、腹腔鏡と鉗子をお腹の中に挿入するため、お腹の中の臓器を損傷する危険性が皆無ではありません。
LPEC法か鼠径法か迷ったら
LPEC法と鼠径法の手術成績(再発率、合併症率など)は、対側発症率以外に差はありません。手術時間、手術後の痛みの程度も変わりません。鼠径法の方が手術の傷は長いですが、数か月であまり目立たなくなります。腹腔鏡をお腹の中に入れることに抵抗があれば鼠径法を、10%の確率で反対側の手術が必要となる可能性が気になればLPEC法を選択する、ということになります。
更新:2024.10.09