道内初!炎症性腸疾患拠点病院としての取り組み

札幌医科大学附属病院

消化器内科、総合診療科

北海道札幌市中央区

炎症性腸疾患(IBD)は慢性的に腸管炎症を起こす病気で、長い目でみた治療が必要です。現在の北海道におけるIBD診療では、地方から専門施設のある都市部への長距離通院を余儀なくされることなどが課題としてあげられます。また、近年の急速な治療選択肢増加のため、医療者側も常に勉強し続ける必要があります。当院は難病診療分野別拠点病院として、北海道の炎症性腸疾患医療の質向上と均てん化(*1)をめざしています。

*1 均てん化:医療技術などの地域格差をなくし、全国どこでも標準的な専門医療を受けることができるようにすること

炎症性腸疾患に関する難病診療分野別拠点病院に指定

当院消化器内科は2019年10月11日に道内初、全国で2施設目となる「炎症性腸疾患に関する難病診療分野別拠点病院」に指定されました。

炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease: 以下IBD)は腸管の慢性炎症性疾患であり、主に潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とクローン病に分けられます。遺伝的素因、環境因子、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の異常などによる多因子疾患とされていますが、原因は未だ解明されていません。

若年者に発症しやすく、腹痛や下痢、血便などの症状により患者さんの生活の質(Quality of Life:QOL)を大きく損なう疾患です。IBDの患者数は年々増加しており(図1)、未だ完治する治療法は確立されていないため生涯治療の継続が必要となります。

棒グラフ
図1 炎症性腸疾患における特定疾患医療受給者証所持者数(1984~2016年)

さらに治療法についても、従来は5アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤(内服や局所投与〈坐薬など肛門から注入する方法〉)が中心でしたが、近年ではさまざまな生物学的製剤(*2)が使用可能となり治療選択肢が増える一方で、治療方針の決定にはより専門的な知識が必要な時代となっています。

道内にも多くのIBD患者さんがいますが、IBDを専門とする病院が都市部に限られていることや北海道が広大であることから、長距離通院を余儀なくされる方も多いと思います。このような問題点を解決するため、当科が拠点病院となり、北海道のIBD診療の均てん化に向けた取り組みを行っています。

具体的には、①かかりつけ医と専門機関との連携強化、かかりつけ医で診療を受けられるシステム(病診連携)の構築、②IBD専門医の養成、コメディカル(看護師、薬剤師、栄養士)の教育、③最新のIBD治療に関する情報の発信を主な活動内容として取り組んでいます(図2)。道内すべてのIBD患者さんのQOLを高く保てるような医療体制を早急につくることが私たちの役割と考えています。

*2 生物学的製剤:化学的に合成した薬ではなく、生物から生成されるタンパク質などの物質を応用してつくられた新しいタイプの薬

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図2 難病診療分野別拠点病院の役割

新しい診療形態への取り組み――炎症性腸疾患の遠隔連携診療

難病拠点病院の役割の1つに、地域中核病院との連携があります。しかし、北海道は都市間の距離が長く、患者さんの移動が大変なため、地域病院との連携が難しいという側面がありました。この問題点を解消するために、私たち消化器内科は「遠隔連携診療」という新しい診療形態に取り組んでいます(写真)。

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写真 遠隔連携診療の様子

「遠隔連携診療」とは炎症性腸疾患(IBD)などの難病専門医と、患者さん、地域病院の医師の3者が同時に診療を行う診療形態で、2020年より保険診療として認められました。この診療形態は、「患者さんがかかりつけ病院へ通院した際に、主治医と難病専門医の診療を同時に受けることができる」ことが特徴です。

IBDは重症化することや、今まで使っていた薬の効果が得られなくなること(難治化)、入退院を繰り返し就学就労に支障をきたすことなど、さまざまな医療上・日常生活上の課題があり、消化器専門医であっても時に治療方針に悩むことがあります。私たちはIBD専門施設として、患者さんならびに地域の医師の方々へ遠隔連携医療を介してお手伝いをすることで、より良いIBD医療を提供したいと考えています。

● 興味のある方は、ぜひ公式WEBページhttps://hokkaido-ibd.net/をご覧ください。

表 遠隔連携診療の実績
診療実績 令和3年4月から
令和3年12月まで
施設数 4施設(市立釧路総合病院,函館五稜郭病院,帯広協会病院,道立江差病院)
令和4年度より市立室蘭総合病院が参加予定
診療回数 36回
診療人数 27人
図
図3 北海道IBDネットワーク構想

炎症性腸疾患分野別拠点病院Web研修会について

クローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の患者さんは、食事、薬剤、生活全般などさまざまな面からのサポート体制が必要です。このため、私たちは、医師、看護師、薬剤師、栄養士を中心に、知見や情報の共有化を図り、患者さんを取り囲むサポート体制を強化するため、研修会を開催しています。

またコロナ禍でWebを活用する機会が増えてきており、道内各地から研修会参加が可能となっています。地域格差なく診療の質を高めるといった点でも、この研修会は大きな役割を果たしていると考えています。

この研修会を通じて、炎症性腸疾患診療が患者さんにとってより良いものとなり、どこにいても同じサポートが受けられ、安心して生活できるような環境が築けることをめざします。

炎症性腸疾患分野別拠点病院Web研修会これまでの取り組み(令和3年1月から)
第一回 1.「IBDに関する難病診療分野別拠点病院の役割とは」
2.「IBD治療に投与する薬剤の説明」
第二回 1.「IBDに関する難病診療分野別拠点病院における看護師の役割」
2.「炎症性腸疾患の栄養管理の重要性」
第三回 1.「指定難病申請のコツ(潰瘍性大腸炎編)」
2.「IBD治療に関する薬剤2~寛解導入に用いる薬剤ステロイド・カルシニューリン阻害剤~」
第四回 1.「IBDの遠隔連携診療について~ほっかいどうIBDネットワーク構想と実運用~」
2.「IBD長期入院患者のセルフケア指導~多職種連携を活かして~」
第五回 1.講演:患者中心医療の実現にむけたIBDチームアプローチ~患者の知識や性格などに配慮した関わり方を中心に~
2.ディスカッションテーマ:多職種連携について~患者中心医療の実現に向けた取り組み~

更新:2024.09.23

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