広域災害医療としての新型コロナウイルス感染症への対応

札幌医科大学附属病院

感染制御部・検査部

北海道札幌市中央区

新型コロナウイルス感染症の猛威にはいわゆる災害医療と同じ対応を迫られました。当院では「札幌市や道内への医師の派遣」「札幌市入院調整システムの構築」「市内クラスター先での感染指導」に加え、病院内においても「患者の受入・重症患者の治療」「市中PCR検査と抗原定量検査の実施」など、北海道の災害拠点病院としてのさまざまな役割を担っています。今後も感染症教育を進めるなどの使命を果たしてまいります。

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左上:感染流行初期患者の搬送の様子
右上:コロナ患者さん受け入れにあたっての感染予防対策レクチャー風景
右下・左下:コロナ重症病棟での治療の様子

道内の入院調整と感染対策指導

当院は、札幌市内のいくつかの病院と同様に、札幌市保健所、そして、北海道からの入院要請を受けて、新型コロナウイルス陽性の患者さんの診療にあたってきました。入院での治療が必要な患者さんの受け入れは、感染制御部の医師が時間に関係なく対応してきました。2021年10月現在で入院した患者さんの数は616人(軽症~中等症コロナ病棟、写真1、2)です。

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写真1 軽症~中等症コロナ病棟の入り口
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写真2 軽症~中等症コロナ病棟内

道内の医療機関・社会福祉施設での新型コロナウイルス陽性患者さんの発生時には、北海道や札幌市の要請を受けて、感染制御部から医師・看護師が感染対策支援のために赴きました。支援先では、職員の方に対して感染対策の基本、医療機関や社会福祉施設内の巡回、感染症流行時の心構えの説明など、感染を広げないためのお手伝いを精力的に行いました。

新型コロナウイルス検査

当院検査部では、新型コロナウイルス感染症への対応として、2020年2月25日から新型コロナウイルス検出のための核酸増幅法検査(PCR検査)を始めました。2021年10月現在で約3万検体の検査を実施してきました。

検査は、初期のリアルタイムPCR検査、抗原定量検査(写真3)、迅速に結果が得られる核酸増幅法検査(写真4)を導入し、入院患者さん、職員、そして、札幌市保健所や北海道から要請を受けた行政検査も行いました。その間、検査部の検査技師は通常医療と新型コロナウイルス検査を両立させる必要があり、厳しい状況での検査部運営となりました。疑わしい症状のある方には必要な検査ですので、今後も引き続き効率的に、かつ、迅速に検査結果を報告できるように努めます。

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写真3 大型の抗原定量検査機器
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写真4 小型の迅速核酸増幅法検査機器

院内の感染対策

2020年1月末に道内で1例目の新型コロナウイルス感染症患者が報告されました。そのときはまだ感染力など、不明なことが多くありましたが、院内へ持込防止対策として外来診察室の確保、ゾーニング(*)の検討を始めました。

院内での発生・拡大を防ぐために、リスク行動の回避だけでなく、軽微な疑似症状でも新型コロナウイルス感染症の疑いで診察、ケア、検査等を行い、飛沫・接触感染予防策の実施が重要となります。院内関係部署で協同し、物品の準備、マニュアルの整備を行い、職員が統一した対応をしてきました。

感染対策には、感染の有無にかかわらず、平時より実施する手指(しゅし)衛生や咳(せき)エチケットといった「標準予防策」という考え方があり、本来、血液や体液などに触れる可能性があるときに実施します。新型コロナウイルス感染症が流行し、ワクチン接種が進みましたが、誰もが感染する可能性はあります。今後も標準予防策の遵守に努めていきます。

*ゾーニング:感染症拡大防止のために、病原体によって汚染されている区域(汚染区域)と汚染されていない区域(清潔区域)を明確に区分けすること

感染対策の基本とワクチン接種後の生活

新型コロナウイルス感染症の流行が変化しても、感染対策の基本は変わりありません。咳やくしゃみで飛び散る飛沫により感染が広がる場合には、マスクが、そして、手はさまざまな所を触れることから、手指消毒が重要です。インフルエンザをはじめとするウイルス感染症の広がりを抑えるために、多くの人が密集するところを避けたり、換気に気をつけることは、もちろん重要です。また、体調不良時にはお休みをすることも感染対策です。

ワクチン接種後、さらに治療薬が使用可能になり、流行の収束となれば今までの生活が取り戻せることになると思います。ただし、ワクチンにより感染の確率をゼロにすることはできませんので、感染対策を無にすることはできません。ワクチンの最も大きな効果は、重症化の予防であるということを認識してもらいたいと思います。

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図 基本的な感染対策

更新:2024.09.23