がんを制圧するワクチン開発
札幌医科大学附属病院
病理学第一講座
北海道札幌市中央区

がんは日本人の死因の第1位を占めています。がんは細胞の遺伝子が変異することによって発生する疾患で、さまざまな有害環境因子(紫外線、タバコ、ピロリ菌など)によって発生することが知られています。これまで進行がんに対する治療法は、抗がん剤と放射線療法が標準治療でしたが、近年、免疫療法が新たな治療法として加わりました。
がんとはナニモノなのか?
人体は約60 兆個の細胞から構成されています。一生を通じて絶えず古い細胞は除去され、細胞分裂を行うことで新しい細胞に入れ替わっています。このとき有害な環境因子によって遺伝子が傷つき、細胞増殖にブレーキが効かなくなった状態が腫瘍(しゅよう)です。
腫瘍がさらに浸潤(しんじゅん)・転移(本来その細胞があるべきところを越えて増殖する状態)する能力を獲得し、正常組織を破壊するようになった状態を悪性腫瘍と呼びますが、これが「がん」の正体です。
がん幹細胞とは?
がん組織をハチの巣に例えると、私たちがこれまで治療の標的としていたのは主に「働きバチ」で、実は「女王バチ」を逃していたために再発や転移が発生することがわかってきました。この「女王バチ」に相当するがん細胞は「がん幹細胞」と呼ばれます。
「がん幹細胞」は、抗がん剤や放射線のような従来の治療に対して高い耐性を持ち、生き残るとわずか10 個の細胞でも大きな腫瘍を作る能力をもつ、がん再発・転移の主犯細胞といえます(図1)。私たちは「がん幹細胞」を捕らえて分析し、これを狙い撃ちするような免疫療法について研究しています。

がん免疫療法とは?
免疫はウイルスや細菌などの外来微生物を排除して身を守るための生体防御システムですが、遺伝子変異によってがん化した自分自身の細胞を排除する力も持っています。特に免疫細胞の1つT細胞は、正常細胞とがん細胞を分子レベルで識別し、がん細胞を攻撃・破壊する能力を持っています(図2)。

免疫療法は、がん細胞への攻撃力を高めたり、がん細胞が免疫から逃避するしくみを抑えたりすることによって、私たちが生来備えている免疫の力を使ってがん細胞を破壊する画期的な治療法です。
がんを予防するワクチン
ウイルスに対する免疫反応を高めて感染や重症化を予防するウイルスワクチンと同様に、私たちはがん細胞に対する攻撃力を高めるがんワクチンの開発に取り組んでいます。
特に、がん細胞の女王バチに相当するがん幹細胞を狙い撃ちするワクチンは、がんの発生や手術後再発の予防に効果があると期待されます。そのために、「がん幹細胞の目印(分子)」を分析し、免疫の「アクセル活性化」と免疫の「ブレーキ解除」を組み合わせる新しい治療法を開発中です(図3)。

副作用が少なく効果的ながん予防ワクチンの実用化をめざして、日夜研究に取り組んでいます。
生活習慣とがん免疫
がん免疫には謎がたくさんあります。免疫療法が効く人と効かない人を見分ける検査についても現在研究中です。近年、腸内細菌が影響することがわかってきました。腸内細菌は食事などの生活習慣によって変化します。生活習慣の改善によって免疫力を高め、がんを予防しましょう。
更新:2024.09.23