胸の奥を熱くしているのはあなたの胃酸かも

食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋という筋肉があり、縮んで締めつけることにより、食物や胃酸が胃から食道に逆流しないようにする役割を果たしています。何らかの影響によって、この筋肉が緩むと胃から食道への逆流が起こるようになってしまいます（図１）。

下部食道括約筋が緩む原因として、生活習慣（食べ過ぎ、高脂肪食、飲酒、喫煙、肥満、ストレス）、構造の異常（食道裂孔（しょくどうれっこう）ヘルニア、胃術後）、加齢、薬剤の影響などがあるとわかっています。

構造異常として最も多い食道裂孔ヘルニアでは、胃と食道のつなぎ目が上にせり上がってしまうことで、胃酸逆流防止の働きが弱まり症状が引き起こされます。この構造異常は内視鏡検査で診断することが可能です。

胸焼け、飲み込みづらさ、胸の痛み、呑酸（どんさん）（酸っぱい胃液があがってくる）が主な症状であり、これらの症状は寝ているときや、前屈みになったときにより強く起こるといわれています。起床時の喉（のど）の痛みや違和感（イガイガ・ヒリヒリ）、長く続く咳（せき）や声のかすれの原因となることもあるため、長引く風邪症状の際には逆流性食道炎の可能性も考えられます（図２）。

逆流性食道炎の診断の基本は問診です。前項に示したような胸焼け、飲み込みづらさなどの逆流性食道炎を疑う症状があれば詳しい検査は行わず、薬による治療を開始することがあります。

前記症状の一部は食道がんでも起こりうる症状であるため、問診だけで逆流性食道炎と診断することが難しい場合や、薬による治療を開始してもなかなか症状が良くならない場合には、内視鏡検査をお勧めします。

内視鏡検査では、実際の食道粘膜のただれの有無やその程度、原因となっている構造の異常を知ること、胃がんや食道がんを探すことができます（写真１、２）。

逆流性食道炎の治療には、生活習慣の改善と薬による治療、そして外科治療とがあります。

生活習慣では、食べ過ぎを避ける、肥満があれば体重を減らす、食後すぐに横になることを避ける、睡眠時に頭を高くして寝る、飲酒・喫煙を避ける、前屈みの姿勢を避ける、などを意識して生活してもらうようお願いしています。また、逆流を起こしやすい食品（コーヒー、炭酸飲料、甘いもの、油もの、酸っぱいもの）をなるべく避けることも大切です（図３）。

それでも症状の改善が得られない場合や、すでに食道に強い炎症が起きている場合には、胃酸を抑える薬（プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー）や粘膜保護剤を内服してもらいます。

生活習慣の改善や薬による治療のみで症状の改善が得られず、食道炎が重症化して食事が摂れなくなったり、出血を繰り返したりするような場合には、逆流を防止するための手術を行うこともあります。ただし、体への負担が強い治療法なので、まずはしっかりと内科的治療を行っていくことが重要です。