高精度な操作による人工膝関節置換術

日本医科大学付属病院

整形外科

東京都文京区千駄木

高精度な操作による人工膝関節置換術

変形性膝関節症とは?

変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)は、加齢などとともに膝の軟骨がすり減り、軟骨に覆(おお)われていた骨がむき出しになり、さらにその骨まですり減り、膝の曲げ伸ばしがスムーズにできなくなることで起こります。病気が進行すると、膝の曲げ伸ばしや正座が困難になったり、立ち上がりや歩きはじめに痛みを伴ったりすることで、日常生活での活動に制限が生じます。末期には外見上もO脚もしくはX脚変形が目立つようになります。初期には体重減量や下肢(かし)筋力訓練、装具装着、内服薬、外用剤、関節注射などの治療を開始しますが、効果が得られない場合や、進行期・末期には手術を行います。

変形性膝関節症に対する手術

人工膝関節置換術(ちかんじゅつ)は、進行期・末期の変形性膝関節症(図1)に対して、関節軟骨が消失し変形した膝の骨表面を骨切り用の電動ノミで切除し、その骨切り面を人工関節インプラントで置き換えるとともに、O脚もしくはX脚に変形した下肢を真っ直ぐに矯正する手術です(図2)。

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図1 変形性膝関節症
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図2 人工膝関節置換術

これまでの手術法では、この骨切り操作を術者が手動で行ってきました。手術手技や器具の発達とともに、手術の正確性は向上していますが、人の手では角度が3度ほど誤差を生じる場合があります。また、3度以上のインプラント設置誤差は手術成績が不良となる可能性が報告されています。

これに対し、ロボット支援下の人工膝関節置換術も注目されています。

当院におけるロボット支援下の人工膝関節置換術

当院では2021年から日本ストライカー株式会社Mako(メイコー)ロボティックシステムによる手術支援ロボットでの人工膝関節置換術を開始し、良好な成績を得ています。金属アレルギー対応のインプラントや膝不安定症に対する拘束型インプラント、人工膝関節再置換術などの特殊な例以外の初回の人工膝関節置換術は、基本的に全例でロボット支援下に手術しています。また、2024年からは、整形外科医にロボット支援下手術を指導する施設にも認定され、当院の研修医、専攻医のみならず、他施設の医師に対する手術手技の指導も行っています。

まず手術前に下肢のX線画像とCT画像を撮影し、太ももの大腿骨(だいたいこつ)とすねの脛骨(けいこつ)の配列(下肢アライメント)がどの程度変形しているかを計測します。次に、コンピュータで骨の大きさ、骨切り量と下肢アライメントの矯正角度から、インプラントのサイズや設置方向など、手術プランを作成します(図3)。

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図3 手術プラン
コンピュータ上で、大腿骨および脛骨の骨切り量を1mm以下、下肢アライメントの矯正角を1度以下で調整し、使用予定のインプラントサイズを決定します。図の左側は、右大腿骨および右脛骨を正面から見たイメージ画像(冠状面)ですが、この症例では大腿骨の内側を8.0mm、外側を7.5mm、脛骨の内側を5.5mm、外側を7.0mm骨切りすることで、下肢アライメントが0度の真っ直ぐな膝になることがわかります
(画像提供:日本ストライカー株式会社)

Makoロボティックシステムは、カメラスタンド、コンピュータ、ロボティックアーム(※1)から構成されています(写真)。術前画像と手術プランをコンピュータに入れると、骨切りノミを装着したロボティックアームをプラン通りの骨切りラインに設置できるため、術者がロボティックアームを操作してプラン通りに骨切りを行います。

※1 ロボティックアーム:人の手に代わって作業を行う手術支援ロボットの腕

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写真 Mako ロボティックシステム
カメラスタンド、コンピュータ、ロボティックアームから構成されています。手術手順は次の通りです。

    • コンピュータに術前画像と手術プランを入れます。
    • カメラスタンドに装着されたセンサーによって、術前データと実際の膝関節をモニター上で整合させます。
    • カメラスタンドのモニターを見ながら、ロボティックアームに装着された骨切りノミをプラン通りの位置に設置し、骨切りを行います

(画像提供:日本ストライカー株式会社)

ロボット支援下手術は、コンピュータ制御下のロボティックアームを術者が操作する半自動型であるため、皮膚や筋肉の展開、インプラントの挿入、手術創の閉鎖などの工程は従来通り術者が行い、骨切り工程のみをロボット支援下で行います。この技術によって、手術プランに対し1度・1mm以下の誤差範囲で手術を行えることから、従来法より正確性が向上することが報告されています(1))。

また、膝の安定性は内・外側の靭帯(じんたい)によって支えられていますが(靭帯バランス)、これを術中にコンピュータで計測しながら調整できるため、膝関節の運動機能の再獲得にも役立つと考えられています。

(1)Sires JD, Craik JD, Wilson CJ. Accuracy of Bone Resection in MAKO Total Knee Robotic-Assisted Surgery. J Knee Surg. 2021 Jun;34(7):745-8.

手術操作による膝周囲の靭帯、神経、血管などの損傷を予防できる

膝関節の周囲には、重要な靭帯や神経、血管が隣接しています。そのため、特に手動で骨切りノミを使用するときは、これらの軟部組織を損傷しないように注意する必要があります。

一方、ロボティックアームによる骨切り操作は、術前計画による骨切りの範囲を超えたり深度が深くなったりすると、コンピュータによって自動的にアームがロックされることから、軟部組織の損傷が予防できます。膝周囲の靭帯損傷は術後に膝不安定性を生じ、また神経・血管を損傷すると、下肢の神経麻痺(まひ)や大量出血などの合併症を生じる可能性があるため、コンピュータ制御によるロボット支援下手術は従来法より安全であると考えられます。

更新:2025.12.12

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