新しいステップダウン型の2型糖尿病治療

日本医科大学付属病院

糖尿病・内分泌代謝内科

東京都文京区千駄木

新しいステップダウン型の2型糖尿病治療

2型糖尿病とは?

2型糖尿病は、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」が出にくかったり、効きにくかったりする体質に、過食や運動不足などの生活習慣が加わって血糖値が上がってしまう病気です。血糖値を高いままにしておくと、神経や目、腎臓(じんぞう)にさまざまな障害を起こし、心臓病や脳卒中(のうそっちゅう)も引き起こします。

しかし、2型糖尿病の治療には、「どんどん薬が増えていって、いずれはインスリン治療になる」という従来のステップアップ型の治療イメージ(図1)が定着しており、薬物治療に拒否感を示す患者さんが多いことがしばしば問題となります。この記事では、インスリンからインスリン以外の治療薬へと切り替えるステップダウン型の2型糖尿病治療について紹介します。

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図1 従来のステップアップ型の2型糖尿病治療

糖尿病治療薬の進歩

2型糖尿病の治療薬は2つに大別され、①インスリンと、②インスリン以外の治療薬9種類があります。1923年にインスリンが初めて糖尿病の治療薬として市販されたあと、1980年代まではたったの2種類しかインスリン以外の治療薬がありませんでした。そのため、この2種類の薬(経口薬(けいこうやく))の併用で血糖コントロール目標に到達できないと、インスリン治療をせざるを得なかったわけです。特に、その経口薬の1つであるスルホニル尿素薬(SU薬)には、次第に効果が弱まってくる二次無効という問題もあり、長期的にはインスリン治療に移行せざるを得ない患者さんが数多くいました。

しかし、近年の治療薬の進歩はめざましく、1990年代に3種類、2000年代に2種類、2010年代に1種類、2020年以降にも1種類のインスリン以外の治療薬が追加されました。その結果、国内の2型糖尿病患者さんのうち、インスリン治療をしている方の割合が2008年の調査では23.2%であったものが、2021年の調査では13%にまで減少しています(糖尿病データマネジメント研究会年次報告)。したがって、2型糖尿病の治療において「いつかはインスリンを注射しなければならない」というイメージはもう過去のものになりつつあります。

インスリン治療の必要性

一方、2型糖尿病の治療においてインスリンが不要になったかというと、決してそうではありません。インスリンは適切に使用すれば、確実に血糖値を下げられる治療薬であることに今も昔も変わりはなく、血糖コントロールが顕著に悪化している場合や、糖尿病以外の病気や手術などで食事量が不安定になった場合には、一時的にインスリン治療に切り替えることが必要です。

また、糖尿病は自覚症状に乏しく、健康診断で指摘された時点で血糖コントロールが著しく悪化していることもあるため、そのような患者さんには、最初からインスリン治療をお勧めする場合があります。

インスリン治療では、体の外からインスリンを補うため、膵臓(すいぞう)にあるインスリンを作る細胞(β細胞)を十分に休養させてあげることができます。そのため、2型糖尿病の患者さんの中には、インスリン治療によって血糖コントロールが改善したあとに、以前よりもインスリンが出やすくなったり効きやすくなったりして、インスリンからインスリン以外の治療薬に切り替わる、もしくは治療薬すらいらなくなる人も出てきます。

インスリン治療からのステップダウン

当院では、年間約1,500人の糖尿病患者さんが入院中にインスリン治療を受けていますが、2型糖尿病患者さんの多くは、インスリンからインスリン以外の治療薬へと切り替える「インスリン治療からのステップダウン」を試みることになります。その過程では、インスリンを突然中止するのではなく、インスリン以外の治療薬を追加・併用しながら、インスリンの使用量を徐々に減らして(漸減(ぜんげん))、中止していきます。

従来、インスリン治療からのステップダウンは入院中の患者さんを対象に行うことがほとんどでしたが、近年の糖尿病治療薬や血糖測定機器の進歩によって、外来でもステップダウンを実行することが可能になりました。

さらに、このステップダウン型の治療展開(図2)が可能となるのは、インスリン治療を受けている患者さんに限られるわけではありません。例えば、①より体質にあった少数の治療薬へと集約する、②生活習慣の改善によって治療薬を減らす、③多剤投薬の解消や低血糖対策のために治療を緩和する(主に高齢者)、といった場面でも応用が可能です。

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図2 新しいステップダウン型の2型糖尿病治療

糖尿病・内分泌代謝内科

当科は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満症などのいわゆる生活習慣病から下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、性腺などに関連した内分泌疾患を対象とした診療科です。

外来・入院診療においては、患者さんの要望が最も多い生活習慣病の外来加療および学習入院(患者さんが主体的に生活習慣病のことを学ぶための入院)から、内分泌機能検査等の特殊検査の実施、持続皮下インスリン注入療法(小型のポンプにより持続的にインスリンを皮下注入して、血糖マネジメントを行う治療法)等の高度医療技術の導入など、時代のニーズに即した先進的医療を実施しています。

また、それぞれの患者さんにとってベストな医療を提供するために、各疾患に対する専門医だけでなく、看護部、臨床検査部、薬剤部、栄養科、医事課、資材課、医療連携室に所属するすべてのメディカルスタッフの総力を結集したワンチーム体制で診療にあたっています。

診療実績

当院に通院している糖尿病患者さんの数は国内でも多く、1型が約300人、2型が約8,000人となっています。また、手術や体調不良で他科に入院した糖尿病患者さんの血糖管理を、当科の医師と特定看護師が中心となって担当しており、他科からの院内紹介件数は2021年度の時点で年間1,530件に到達しました(図3)。

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図3 他科からの院内紹介件数の推移

このような総合的な糖尿病診療体制を持つ当院は、全国からも高い注目を集めています。これからも私たち医療スタッフが一丸となって、糖尿病患者さんが安心して入院できる診療体制づくりを進めていきます。

更新:2025.12.12

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