婦人科領域のがんに対する治療
日本医科大学付属病院
女性診療科・産科
東京都文京区千駄木

婦人科領域のがんとは?
婦人科領域のがんとしては、子宮頸(しきゅうけい)がん・子宮体(しきゅうたい)がん・卵巣(らんそう)がん(卵管(らんかん)・腹膜(ふくまく)がんを含む)が主なものです(図1)。それぞれ好発(※1)年齢・リスク因子・治療法などが異なります。

子宮体がんでは不正出血がよくみられますが、子宮頸がんや卵巣がんでは、進行するまで無症状のことが少なくありません。以下に述べるリスク因子がある女性は早めの婦人科受診をお勧めします。
当院では、手術治療・抗がん剤治療・放射線治療を適切に組み合わせ、治療ガイドラインを遵守した治療を行っています。
※1 好発:高い頻度で発生すること
婦人科がんのリスク因子と気をつけるべき症状
①子宮頸がん
子宮頸がんは20~30歳代の若い方に増えており、大きな問題となっています。子宮頸がんの原因は、HPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染です(図2)。HPVはセックスで感染し、子宮頸がん以外にも、中咽頭(ちゅういんとう)がんなどの原因として知られています。子宮頸がんは、初期は無症状ですが、進行すると不正出血(特にセックス時の出血)、おりものの異常、下腹部痛や腰痛などが生じることがあります。

②子宮体がん
子宮体がんは、現在最も増加している婦人科がんです。肥満・高血圧・糖尿病などのいわゆる「メタボリック・シンドローム」がリスク因子となります。そのほかにも妊娠/出産の経験がない方や、閉経が遅いなどもリスク因子です。子宮体がんでは、月経時以外や閉経後の「不正性器出血」がよくみられます。
③卵巣がん(卵管・腹膜がんを含む)
卵巣がんは、遺伝的要因がリスクとなることがあります。血縁者に卵巣がんや乳がんの方が多い場合は、特に注意が必要です。卵巣がんの初期は無症状のことが多いですが、進行すると腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)や食欲不振、下肢(かし)のむくみ、不正性器出血、息苦しさなどが出ることがあります。
病院で行う検査
①子宮頸がん
子宮頸部や頸管内の細胞診(※2)、コルポスコピー(膣(ちつ)や子宮頸部をみる拡大鏡)を用いた組織診(※3)などの病理検査でがん細胞の確認を行います。また超音波(エコー)/CT/MRI/PET(ペット)-CTなどを駆使し、病変部の広がりを確認する画像検査も行います。進行がんが疑われるときは、血液検査で腫瘍(しゅよう)マーカーや腎(じん)機能を確認します。前がん病変(がんになる手前の状態)である「異形成」の場合は、HPVのタイプを調べる検査を実施することがあります。
②子宮体がん
子宮体がんでは、子宮内腔に検査器具を挿入して、子宮内膜細胞診/組織診を行います。子宮頸がんと同様に、各種画像検査や腫瘍マーカーの検査を行うことがあります。外来の病理検査で子宮体がんの診断がつかないときは、麻酔下で子宮鏡や子宮内膜全面掻爬(しきゅうないまくぜんめんそうは)(子宮内膜をすべて掻(か)き出す手術)が必要となることがあります。
③卵巣がん(卵管・腹膜がんを含む)
卵巣は骨盤(こつばん)内にあるため、子宮がんと異なり、外来の病理検査でがんの診断を確定できないこともあります。血液検査や画像検査で病巣の広がりや転移の有無を確認し、胸水や腹水がある場合は、穿刺(せんし)(針を刺すこと)してがん細胞の有無を調べます。近年はCTガイド下生検(せいけん)という組織診断方法も一般的です。
※2 細胞診:病変から取った細胞を顕微鏡などで調べ、何の病気であるかを診断する検査
※3 組織診:病変の一部の組織を採取して調べる検査
婦人科がんに対する治療法
婦人科がんの治療方針は、年齢や妊娠希望の有無で大きく異なります。初期がんの一部では、子宮や卵巣を温存する治療を選択できる場合もあります。
①子宮頸がん
前がん病変である高度異形成や上皮内(じょうひない)がんなどでは、子宮の頸部のみを切除する「円錐切除術(えんすいせつじょじゅつ)」で、将来妊娠する可能性を保っての治療が可能です。しかし、ある程度進行してからの治療では、子宮摘出手術や放射線治療などが必要となることが多くなります。これらの場合は、治療後の妊娠は不可能になります。
②子宮体がん
子宮と卵巣の摘出手術が基本となり、多くは内視鏡や手術支援ロボットを用いた体の負担が少ない手術法で行います。術後の病理検査の結果により、追加で抗がん剤治療が必要かどうかを判定します。前がん病変である子宮内膜異型増殖症やごく初期のがんで、将来の妊娠を希望される方に対しては、子宮を温存するホルモン治療を行う場合もあります。
③卵巣がん
手術中に病理検査を行う「迅速組織診断」を併用した開腹手術が主な治療法です。迅速組織診断の結果により、手術で摘出する範囲が異なります。進行がんでは、手術前後に抗がん剤を併用する治療を行います。治療に適した薬剤を選択するために、腫瘍組織を用いた遺伝学的検査(コンパニオン診断)を行う場合もあります。
当科の特色 女性診療科・産科
当科では、大学病院ならではの専門性を生かした先進的な治療を行っています。複数の婦人科腫瘍専門医(日本婦人科腫瘍学会認定)、内視鏡技術認定医(日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会認定)、臨床遺伝専門医(日本遺伝カウンセリング学会、日本人類遺伝学会認定)などが治療を担当し、患者さんや家族の疑問に丁寧にお答えします。合併症を持っていたり体力が低下したりした方に対しても、他科と密接に協力し、安全で全人的な治療を心がけています。一次施設からの患者さんの紹介や「セカンドオピニオン」も積極的に受け入れています。
診療実績

更新:2025.12.12
