食道がん・胃がんの内科的・外科的治療
日本医科大学付属病院
消化器外科
東京都文京区千駄木

食道がん・胃がんの治療
食道がんは食道の粘膜(ねんまく)から、胃がんは胃の粘膜から発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の総称です。主に内視鏡検査やバリウム造影検査、CT検査を用いて病変を確認し、内視鏡検査で病変から組織を採取して、診断します。
食道がんも胃がんも、治療としては内視鏡による切除、手術による切除、抗がん剤を用いた化学療法があります。食道がんでは放射線治療もあります。それぞれの病気の進み具合により、治療を選択します。
原因・症状・診断
- 食道がん
- 食道がんは、食道の内面を覆(おお)っている粘膜から生じる悪性腫瘍で、日本ではその90%以上が扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんといわれています。食道がんは近年増加しており、飲酒や喫煙に関係して発症することが多いがんとされています。
食道の粘膜から発生したがんは、大きくなると食道の壁の深くまで広がっていき、周囲の臓器にまで直接広がっていくことがあります。これを浸潤(しんじゅん)といいます。また、リンパ液や血液の流れに乗って、食道外にあるリンパ節や肺、肝臓など、ほかの臓器へと移っていくことがあります。これを転移といいます。
食道がんは、初期には自覚症状がないことがほとんどです。進行するにつれて、飲食物のつかえ感や体重減少、胸や背中の違和感や痛みなどの症状が出ます。 - 胃がん
- 胃がんは、胃の内面を覆っている粘膜から生じる悪性腫瘍で、胃がんの死亡者数は、男性では2位、女性では4位と消化管がんの中でも非常に多いがんの1つです。
胃がんの原因については、ピロリ菌の感染が最も重要です(図1)。ピロリ菌を除菌することで、がんの発生リスクを下げられることがわかっています。ただし、除菌したあとも、胃がんのリスクは残ります。
最近ではピロリ菌に感染していない患者さんにも胃がんが発生することがあり、注目されています。食道がんと同様に、胃がんも大きくなると、浸潤や転移が起こります。
胃がんは初期には自覚症状がないことがほとんどです。進行するにつれて、胃のもたれや痛み、体重減少や倦怠感(けんたいかん)などの症状が出ます。

- 診断
- 食道がんと胃がんの診断方法は、ほぼ同じです。いずれも内視鏡で病変を観察し、病変から生検(せいけん)(患者の一部を採取すること)を行い、病理検査(顕微鏡で細胞を詳細に見る検査)でがんの診断をつけます。最近では内視鏡の進歩によって、特殊光内視鏡を用いて表面を拡大し病変を観察することで、生検をしなくてもほぼ、がんの診断をつけられる例も出てきました。
がんの診断がつくと、次に超音波(エコー)検査やCT検査、PET(ペット)検査などを行って、がんの広がり(進行度)を調べます(病期診断)。病期診断の結果によって適切な治療の選択をしていくことになります(図2)。
内視鏡で取り切れる範囲の病変は内視鏡治療、外科手術で取り切れる範囲の病変は外科手術、切除困難な場合は薬物療法が基本方針となります。なお、食道がんにおいては、切除困難な例でも、放射線照射可能範囲内であれば、放射線と薬物療法の併用療法(化学放射線療法)を行うこともあります。

内視鏡治療
早期のがんであり、がんが消化管の一番上の層(粘膜といいます)やその次の層(粘膜下層といいます)の上方にとどまり、周囲のリンパ節やほかの臓器に転移していない場合には、胃カメラ(内視鏡)を使って腫瘍を切除します。内視鏡での治療は、口から挿入した内視鏡を使用して腫瘍を切除するため、お腹(なか)の皮膚を切る必要がなく、患者さんが受ける身体的負担が非常に少ないことがメリットです。
内視鏡治療には、主に内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)があります(図3)。EMRは小さい腫瘍に対して実施します。まずは内視鏡の先から出した針を使って、腫瘍の直下に生理食塩水やヒアルロン酸などの人体に害のない液体を注入し、腫瘍の直下の粘膜下層を膨らませます。膨らませることで、腫瘍と腫瘍の下にある筋層を物理的に離し、合併症を防ぐことができます。その後、内視鏡の先からスネアという輪っかのような器具を腫瘍周囲に引っ掛け、縛ったうえで電気を使って切除します。

ESDは高周波ナイフを用いて腫瘍を切り剥(は)がしていく治療で、腫瘍の大きさに関係なく切除できます。EMRと同様に腫瘍の直下に液体を注入したあと、内視鏡の先から出した高周波ナイフで腫瘍の周囲の粘膜を切り、粘膜の下部にある粘膜下層を薄く剥いでいくことで、腫瘍を切除します。
ESDで最も多い偶発症(※1)は、治療後に切除した部分から出血を起こしてしまうことです(後出血といいます)。特に抗血栓薬(こうけっせんやく)(血をサラサラにする薬)を内服している方は5~10人に1人の確率で後出血が生じます。当院では、出血リスクが高い場合には、内視鏡の先から出した器具を使って、切除部を外科手術で用いる縫合糸で縫い合わせ、後出血を防ぐ方法も実施しています。
いずれの治療も、長時間となることが多い治療のため、点滴で鎮静剤を使いながら行います。切除した腫瘍の病理結果次第で、追加で外科手術が必要になることもあります。
※1 偶発症:検査や治療の際、偶然起こった症状や状態
外科治療
- 食道がん
- 食道がんの外科治療は、一般的に頸部(けいぶ)・胸部・腹部の操作が伴う大きな手術です。特に、胸やお腹に大きな創(きず)が必要な開胸・開腹操作はさまざまな面で患者さんの体への負荷が増大します。
当院での食道がん外科治療の特色としては、手術での患者さんの負担を極力軽減するように、胸やお腹に大きな創を開けることのない胸腔鏡下(きょうくうきょうか)手術・腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術が可能であるということです。5~10mm程度の筒を通せる複数の孔(あな)から、マジックハンドのような機器を使用して手術を行います(図4)。さらに現在では、ロボット支援下での手術を導入しています。
また、合併症や肺がん治療後で胸の操作ができない方にも、縦隔鏡下(じゅうかくきょうか)手術という、胸を開けないで行う手術ができます。これは食道がん手術にも対応可能です。食道粘膜下にできる良性腫瘍に関しては、胸腔鏡下食道腫瘍核出(かくしゅつ)術という、食道切除を伴わない4個程度の小さい孔を開ける手術で行っています。

手術(左)・腹腔鏡下手術(右)の孔
- 胃がん
- 胃がんの外科治療は、胃がん治療のガイドラインに基づき、リンパ節転移のない早期の粘膜がん(胃カメラで胃の壁の一部を削るESD、図3)を除く患者さんに行います。
胃がんのできた場所により切除範囲が異なります(図5)。入口(噴門(ふんもん))の方にできた胃がんは噴門側胃切除(入口の側の胃を3分の1切除)を行います。真ん中から出口幽門(ゆうもん))にできたがんは、幽門側胃切除を行います。また胃がんの範囲が広かったり、進行胃がんの場合は、胃全摘術になることもあります。
当科では、患者さんの負担を極力軽減するようにお腹に大きな創を開けることなく、5~10mm程度の筒を通せる複数の孔から行う腹腔鏡手術を積極的に行っており、ロボット支援下での手術も行っています(図6)。
また胃の消化管間葉系腫瘍(GIST)に関しては、腹腔鏡手術を行っており、胃カメラと腹腔鏡の両方を用いた腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)も積極的に行っています(詳しくは(「がんじゃない悪性腫瘍!? 胃粘膜下腫瘍の正体」))。


薬物治療
- 食道がん
- 食道がんの薬物治療は、①手術成績を上げるために手術前後に行う薬物治療と、②局所進行がんに対して行う化学放射線治療としての薬物治療、さらに、③遠隔転移や術後再発例に延命や症状緩和のために行う薬物治療の3つの方法があります。
それぞれ、従来から使用されてきた、がん細胞を破壊する細胞障害性薬物や、最近登場してきた免疫を活性化させて治療を行う免疫チェックポイント阻害薬を、単独や組み合わせて使用します。
また、放射線治療後に再発した食道がんに対しては、光線力学的療法(PDT)という特殊な治療があります。全国でも限られた施設でのみ行われていますが、当院は実施可能です。 - 胃がん
- 胃がんの薬物治療は、①手術後に再発を減らすために行う薬物治療と、②遠隔転移や術後再発例に延命や症状緩和のために行う薬物治療の2つの方法があります。細胞障害性薬物、免疫チェックポイント阻害薬、そして、特定の分子を標的とした薬物(分子標的治療薬)を、それぞれ単独や組み合わせて使用します。
がんの薬物療法は、吐き気や倦怠感、脱毛、手足のしびれ、皮疹、肺炎、甲状腺炎(こうじょうせんえん)、副腎不全(ふくじんふぜん)など多くの副作用が出ることがあり、十分注意して慎重に治療を行っています。これら薬物治療の進歩によって、少しずつ食道がん、胃がんの患者さんの寿命は延長されつつあります。
当科の特色 消化器外科
当科では、食道がんに対して、2009年から患者さんに負担の少ない鏡視下手術(胸腔鏡下手術・腹腔鏡下手術など)を行っています。そのため、当科での上部消化管がん手術の特色として、比較的早い時期に食道がん・胃がんに鏡視下手術を導入してきたことが挙げられます。
現在、食道がんに対しては、ほぼ全例で胸腔鏡下あるいは縦隔鏡下で外科治療を行っています。また胃がんに対する外科治療も、腹腔鏡下手術中心で行っています。最近では、ロボット支援下手術も導入しており、当院は、より精緻で患者さんにやさしい外科治療を提供できる施設だと考えています。
ロボット支援下手術の欠点は、ロボットアームが体外でぶつかり(干渉)、思うように鉗子操作を行えなくなってしまうことですが、hinotori™のロボットアームには8つの関節があり、かつアームが細いので、アーム同士が干渉しにくくなっています。
診療実績(2022年度)
食道がん
- 食道がん手術39件(胸腔鏡下・縦隔鏡下・腹腔鏡下)
- 食道バイパス術2件
- 食道腫瘍核出術2件
- 食道がん内視鏡治療43症例54病変
- 食道がん薬物治療15件
胃がん
- 胃全摘:28件(10件が腹腔鏡)
- 幽門側胃切除41件(26件が腹腔鏡)
- 噴門側胃切除12件(8件が腹腔鏡)
- 合計開腹術37件
- 腹腔鏡下手術44件
- その他バイパス術10件
- 胃消化管間葉系腫瘍(GIST)18件(腹腔鏡内視鏡合同手術11件、腹腔鏡下胃局所切除6件、腹腔鏡補助下噴門側胃切除1件)
- 胃がん内視鏡治療86症例104病変
- 胃がん薬物治療22件
更新:2025.12.12
