腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡を用いた治療

日本医科大学付属病院

整形外科・リウマチ外科

東京都文京区千駄木

腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡を用いた治療

腰部脊柱管狭窄症とは?

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)は、腰の部分の背骨の中を通っている「脊柱管」という管が細くなる病気です。脊柱管の中を神経が通っているので、管が狭くなると神経が圧迫されて、お尻や脚に痛みやしびれが生じます。

特徴的な症状として、一定の距離を歩くと休む必要が出てくる間欠性跛行(かんけつせいはこう)が生じ、日常生活が障害されることがあります。薬などで良くならなければ、外科的に脊柱管を広げる手術によって、改善が期待できます。

診断されるまでの流れ

●症状

腰部脊柱管狭窄症は、腰の背骨の中にある「脊柱管」という通り道が狭くなり(図1)、下記のような症状を生じます。

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図1 腰部脊柱管狭窄症
腰の背骨の中にある「脊柱管」がさまざまな原因で狭くなる病気です
①腰痛:
椎間板(ついかんばん)や腰の関節などの加齢変化や、神経自体の圧迫により痛みを生じます。
②下肢(かし)の痛み・しびれ:
太もも、ふくらはぎ、足に痛みやしびれが生じます。
③間欠性跛行:
一定の距離を歩くと腰や足が痛くなる、休むとまた歩ける状態を繰り返します。

●原因

黄色靭帯(きいろじんたい)の肥厚、骨棘(こつきょく)(骨の飛び出し)、椎間板の膨隆により脊柱管が狭くなります。

①黄色靭帯の肥厚:
年齢とともに黄色靭帯が厚くなり脊柱管が狭くなります。
②骨棘:
背骨の骨が飛び出して脊柱管を狭めることもあります。
③椎間板の膨隆:
椎間板も傷んで、脊柱管に向かって膨隆し脊柱管を狭めます。

●検査・診断

腰部脊柱管狭窄症は、患者さんの症状、身体的所見、および画像診断にて行われます。

①問診:
痛む箇所、程度、発症の経緯、またその症状が現れる状況を聞きます。
②身体的検査:
脚の反射、筋力や感覚を評価します。歩行時の姿勢も診断の助けとなります。
③画像診断:
・単純X線:骨の形状の異常を確認します。
・MRI(磁気共鳴画像):脊柱管内の神経の状態を確認します(図2)。
・CT(コンピューター断層撮影):骨の詳細を確認することができます。
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図2 MRI画像
脊柱管内で神経が圧迫されている様子がわかります(矢印)

以上の検査を組み合わせて、腰部脊柱管狭窄症の診断を行うことができます。

治療

腰部脊柱管狭窄症の治療は大きく分けて、投薬やブロック注射などの保存的治療と、手術を行う外科的治療があります。症状が軽度の方は、投薬やブロック注射の保存的治療で自然軽快することもあります。

これらの保存的治療が効果のない方、また痛みのため日常生活に支障が出ている方は手術が考慮されます。手術は、腰椎椎弓切除(ようついついきゅうせつじょ)術と腰椎椎体間固定術(ついたいかんこていじゅつ)に分けられます。手術はいずれも全身麻酔で行います。

●腰椎椎弓切除術

腰椎椎弓切除術は腰の部分に切開を加えて、脊柱管後方の椎弓を取り除きます。これにより脊柱管内で圧迫された神経が開放され、症状の改善が期待できます。当院では、可能な患者さんには内視鏡を用いた椎弓切除を行っており(図3)、体への負担が小さく早期に社会復帰することができます。

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図3 内視鏡下椎弓切除術
8mmの内視鏡を用いて椎弓切除が可能です

●腰椎椎体間固定術

一方、腰椎椎体間固定術(図4)は、背骨に不安定性のある患者さん、背骨の間にずれがある方(すべり症)に行います。

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図4 腰椎椎体間固定術
インプラントを用いて上下の背骨を固定します

腰に切開を加えて背骨を露出させ、椎弓を切除し、椎間板を自家骨とケージ(金属製の補強材)に置き換えます。このとき脊柱管は拡大されます。さらに、スクリュー(固定具)を後方から設置し、インプラント(体内に埋め込まれる器具)を用いて、上下の背骨同士を固定します。その際に、切除した椎弓を粉砕し骨移植を行います。これにより、最終的に上下の背骨が骨で癒合(ゆごう)(くっつくこと)するため、永続的な安定性を得ることができます。

当院では腰椎椎体間固定術も内視鏡を用いて治療を行っています。

治療法の選択は、症状の重症度や、患者さんの年齢、全身状態など多くの要因を考慮する必要があります。したがって最適な治療は、相談しながら決定します。

整形外科・リウマチ外科

当科の脊椎外科部門では、内視鏡や専用の器械を用いて、手術の低侵襲化(ていしんしゅうか:体の負担を少なくすること)に力を入れています。従来の術式に比べて筋肉などの組織へのダメージが抑えられ、感染や出血のリスクが低減し、入院期間の短縮などが期待できます。

すべての脊椎疾患にこの低侵襲な術式が適応できるわけではありませんが、担当医師が患者さんと相談してベストな治療を提案します。

診療実績

当科における脊椎外科手術件数は、内視鏡の導入以降、2021年は276件まで増加しました。

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図5 症例数(内視鏡症例数)

更新:2025.12.12

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