統合失調症の早期診断・早期治療-統合失調症
富山大学附属病院
神経精神科
富山県富山市杉谷
統合失調症とは、どんな病気ですか?
統合失調症は、思春期や青年期に好発する脳の病気で、その頻度(ひんど)は約120人に1人であり、決してまれな病気ではありません。原因ははっきりとは分かっていませんが、脳内の神経伝達物質の異常などによって、症状が生じると考えられています。
統合失調症の患者さんは、思考や行動、感情がまとまりにくくなり、その経過中に、幻聴や妄想などに加え、ひきこもり傾向や認知機能、社会的役割機能の低下などの症状もしばしば認められます(図1)。かつては精神分裂病と呼ばれていましたが、「精神が分裂する病気」といった誤った解釈を避けるため、2002年に現在の病名に変更されました。
統合失調症の診断は、幻聴や妄想などの症状に基づいて行いますが、ほかの疾患(脳炎、てんかん、内分泌疾患、双極性障害など)でもよく似た症状が生じることがあり、鑑別診断のために血液検査や脳の検査が役立ちます。また、最近の研究により、脳画像検査、脳波検査、認知機能検査などによって、統合失調症の病状を詳しく調べて診断や治療に役立てることができるようになってきたため、当科では統合失調症の患者さんに対して積極的にこれらの検査を行い、脳の構造や機能を評価しています(図2)。
統合失調症は慢性の病気ですが、早期に専門家の診察を受けて適切な治療を続けることで、多くの患者さんが自立した社会生活に復帰しています。
統合失調症は、どのように治療するのですか?
薬物療法を中心に、症状の回復や程度に応じて、心理社会的治療を組み合わせて治療を行っています。
薬物療法では、主にドパミンなどの神経伝達物質のバランスを整える薬(抗精神病薬)を使用し、症状に応じて抗不安薬や睡眠薬なども用います。服薬を中断することで、1年以内に約8割の患者さんが再発したとの報告もあり、高血圧や糖尿病のようなほかの慢性疾患と同様に、統合失調症も長期にわたって治療を継続する必要があります。薬物療法を続けやすくする工夫として、薬の種類や内服回数を減らす、剤型を調整する(液剤、口腔内崩壊錠など)、効果が2〜4週間持続する注射薬(持効性注射剤)を用いる、などありますので、詳しくは主治医に相談してください。
十分な治療を行っても効果が現れない場合には、治療抵抗性統合失調症治療薬(クロザピン)による治療や、修正型電気けいれん療法も選択肢となります。当科での修正型電気けいれん療法は、手術室にて全身麻酔下で安全に行われます。心理社会的治療としては、患者さんや家族に対する心理教育に加え、社会生活技能訓練(SST)や作業療法なども取り入れています。また、精神保健福祉士が地域のさまざまな社会資源(社会復帰のためのリハビリテーション施設など)を紹介しています。詳しくは医療福祉サポートセンターで相談してください。
早期診断・早期治療は、なぜ重要なのですか?
多くの体の病気と同様に、統合失調症も、発症から適切な治療が開始されるまでの未治療期間が短いほど治療効果が高くなり、社会生活機能や生活の質が良好に保たれることが報告されています。すなわち、早期診断・早期治療によって、より多くの患者さんが社会復帰を果たすことが期待できます。
近年では、より早期に精神疾患の治療や支援を開始するための活動が、国内外で行われるようになってきており、当科では2006年から富山県心の健康センター(精神保健福祉センター)と連携して、「こころのリスク相談事業」を行っています(図3)。この事業は、統合失調症などの精神疾患を発症するリスクが高いと考えられる「こころのリスク状態」にある若者やその家族に対して、専門家による相談、診断、治療の機会を提供することを主な目的としています。「こころのリスク状態」についての詳しい説明や「こころのリスク相談事業」の利用方法につきましては、ホームページ(http://www.med.u-toyama.ac.jp/neuropsychiatry/index-kokoro.html)をご覧ください。
統合失調症は、約120人に1人の頻度で思春期や青年期に好発します。
思考や行動、感情のまとまりにくさ、幻聴や妄想など、さまざまな精神症状を生じます。
治療は、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせて行います。
早期治療により、社会復帰率の向上が期待されます。
更新:2024.10.07