下垂体腫瘍ー体に負担の少ない鼻経由の脳外科内視鏡手術

福井大学医学部附属病院

脳神経外科

福井県吉田郡永平寺町

下垂体とは

脳の下の垂(た)れる体(組織)という部分が下垂体(かすいたい)です。小指の先ほど(1cm大)の組織ですが、毎日元気に活動するために必要なホルモンを作っています。ホルモンは内分泌され、恒常性維持や生殖など生物として基本的な役割を果たしています。簡単にいうと、月経が28日周期(性腺刺激ホルモンのリズム)、背が伸びて大人になって止まること(成長ホルモン)、体温が36℃台で一定(甲状腺刺激ホルモン)など、自分の意志に関係なく、自然と体が調節している働きのことです。

下垂体腫瘍とは

下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)は、ウズラの卵大から鶏卵大で発見されることが多いです(写真)。ホルモンがたくさん出ると症状が体全体に及ぶので、見た目である程度予想がつきます。例えば、プロレスラーの故ジャイアント馬場さんは、成長ホルモンを多く出す下垂体腫瘍(しゅよう)のため、2mを超す巨人症になりました。視力障害を生じたため手術を要し、プロ野球を辞めざるを得ませんでした。

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写真 下垂体腺腫の存在場所と手術のイメージ

ホルモンの調節が狂うため、月経停止、不妊(産婦人科不妊、泌尿器科ED)、糖尿病(内科)、手のしびれ(整形外科)、噛み合わせが悪い(歯科口腔外科)、夜間無呼吸(耳鼻科)、身長異常(小児科)、視障害(眼科)などの症状が出るため、最初から脳神経外科を受診する人がほとんどいないという疾患です。

当院での治療と最新の取り組み

頭を切らない手術、鼻経由、傷跡がない手術

鼻の穴から手術をします。鼻の中に指を入れると4cmほど入ります。さらに1cmほど進むと骨の空洞(蝶形骨洞(ちょうけいこつどう))があり、その先に下垂体があります。ボールペンと同じ太さの内視鏡で見ながら、ドリルを使って骨を削ると下垂体腫瘍に到達できます。

手術中の機能と形態をモニター

機能モニター:目の神経が近くにあるので、麻酔中に刺激の光を当て、脳波で視機能のモニターを専任の技師が行います。術前に視力障害のある方の90%以上が改善しています。

形態モニター:手術室内にCTを設置し、術中に摘出範囲と合併症の有無を調べます。国内有数の稼働数です。

手術数と術後管理

1984年の病院開設以来、下垂体腺腫の手術(経蝶形骨洞的腫瘍摘出術(けいちょうけいこつどうてきしゅようてきしゅつじゅつ))は300人以上になります。手術合併症も世界標準より低いです。鼻から経由する手術は、機器も特別なものが用意されていなくてはならず、当院では最新の下垂体腫瘍機器を採用しています。下垂体機能(ホルモン機能)は全身に及びますので、手術で終わりではなく生涯を通じた体調管理を要します。体調を崩したときに、直ちにホルモンの補充を開始しないと命にかかわることもよく知られています。

各科との協力

下垂体手術は脳神経外科単独では管理できません。耳鼻科、眼科、内分泌内科などと協力して、隙のないチーム医療を提供します。

更新:2023.09.10