不妊症・不育症とハイリスク妊娠
福井大学医学部附属病院
産科婦人科
福井県吉田郡永平寺町
不妊症・不育症のカップルが増えています
結婚されたカップルの多くが「子どもは2~3人欲しい」といわれます。ところが実際には、赤ちゃんを望んでもなかなか妊娠できない不妊症や、せっかく妊娠しても流産を繰り返す不育症のため、悩み傷ついている夫婦が大勢いらっしゃいます。
不妊症カップルは6組に1組、不育症カップルは50~100組に1組といわれています。実に5組に1組の夫婦が、何らかの理由で赤ちゃんに恵まれないというのが現状です。
1.不妊症の検査と治療
私たちが治療にあたる不妊症カップルは、女性不妊(卵巣が弱くて排卵しづらい・卵管の通りが悪い・子宮内膜症・子宮筋腫(きんしゅ))と、男性不妊(精子が弱くて少ない)が、複雑に重なり合っているケースがほとんどです。
そこで私たちは、まず女性に最適と思われるホルモン治療や手術を行い、少しでも妊娠しやすい環境を整えます。
それから男性の精子の状態に合わせて、①SEXのタイミング指導、②人工授精(排卵のタイミングで子宮に精子を注入する)、③体外受精(卵巣から採り出した卵子に精子をかけ合わせる)、④顕微授精(採り出した卵子に1匹の精子を直接注入する)など、さまざまな治療を試みています(写真1)。
ここが安全・安心
私たちは、できるだけ自然に近いかたちでの妊娠を心掛けており、すべての患者さんに体外受精や顕微授精をお勧めはしていません。ただ40歳前後の高齢女性も多く、時間の余裕がほとんどない場合、治療にはスピード感も必要です。
当科は高度な不妊治療を行うことのできる生殖医療専門医を擁しており、最適な治療法を最速で提案することができます。1つひとつの治療について、その有効性と限界を客観的な数字を用いてお話し、よく納得していただいてから治療をスタートします。
当院では、不妊治療で8割の患者さんが妊娠されていますが、40歳以上では半数以上が流産してしまうため、実際に出産できる方は7割に過ぎません。残念ですが、どんなに頑張っても妊娠・出産できない患者さんはおられます。不妊治療に伴う肉体的・精神的・経済的ストレスと比べて、妊娠・出産の可能性がきわめて低いと総合的に判断した場合は、こちらから不妊治療の終結をお勧めするケースもあります。
2.不育症の検査と治療
女性がせっかく妊娠しても、6回に1回は流産してしまいます。流産の原因は、ほとんどが受精卵すなわち赤ちゃんの弱さですので、どうすることもできません。
ここでいう不育症とは、お母さん側に何らかの原因があって流産を繰り返すタイプです。受精卵が子宮に着床するまでは大丈夫なのに、その先の妊娠を維持するのが苦手という患者さんです。
不育症は精密検査をしても半数が原因不明であり、まだまだ分からない部分も多いのが現状です。一方で、子宮に奇形やポリープ・筋腫が潜んでいたり、子宮の血液のめぐりがよくない患者さんには、有効な治療法が確立しています。とにかく一度、子宮の状態をきちんと検査してみることが大切です。
ここが安全・安心
不育症の理由になりそうな子宮の奇形やポリープ・筋腫を見つけたら、子宮鏡というカメラを用いて積極的に手術を行っています。また、子宮の血流が悪くなる抗リン脂質抗体症候群といった自己免疫疾患が疑われる場合は、アスピリン(飲み薬)やヘパリン(注射)を用いて子宮の血流を改善し、より強い胎盤ができるようサポートしています。
当院では、不育症の治療で8割以上の患者さんが無事に出産しています。一方で、流産を繰り返すうちに年齢が重なってしまい、妊娠できなくなる患者さんもいらっしゃいます。ちなみに、流産の手術は子宮にダメージを与えることがありますので、できれば手術を避けるようにしています。
3.不妊症・不育症女性の出産はハイリスク
不妊症や不育症の女性がうまく妊娠し維持できたとしても、その出産はリスクが高いことが分かっています。
不妊症の女性が妊娠すると、早産や妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)・妊娠糖尿病になりやすく、赤ちゃんも低出生体重児や周産期死亡のリスクが高いといわれています。さらに体外受精や顕微授精で妊娠した場合は、前置胎盤や常位胎盤早期剥離(はくり)といった胎盤異常のリスクも高まります。ちなみに当院で出産時の出血量を調べたところ、体外受精・顕微授精の患者さんの出血量は、自然妊娠の方の2倍でした。
不育症の患者さんも、早産や妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)・低出生体重児のリスクが高まります。
ここが安全・安心
当科では、不妊症・不育症の治療を通じて、患者さんの背景を知り尽くした生殖専門医が、妊娠・出産を担当する産科チームと連携し、お母さんと赤ちゃんが無事に退院するまで責任をもって見届けることにしています(写真2)。
胎児の超音波検査を得意とする産科専門医や、赤ちゃんのプロである新生児専門医も擁しています。妊娠のスタートから出産、赤ちゃんのケアに至るまで、ベストな医療を提供できるのが私たちの強みです。
更新:2024.10.07