知らぬ間に進行するC型肝炎からの肝がん

浜松医科大学医学部附属病院

肝臓内科

静岡県浜松市東区半田山

肝がんとは?

部位別がん死亡数第5位の肝がんは、約半数がC型肝炎(がたかんえん)由来であり、C型肝炎を根治することが、肝がん予防に繋がります。C型肝炎治療は近年著しく進歩し、年齢にかかわらず根治(完全に治すこと。治癒)できるようになりました。

C型肝炎から肝がんへの進行は、症状がないことが多いため、血液検査と画像検査を組み合わせた総合的な診断で早期発見することが重要です。治療は、肝機能と肝がんの状態を踏まえて治療を選択する必要があり、肝臓(かんぞう)専門医と相談しながら検査・治療を進めていく必要があります。

C型肝炎と肝がん

肝臓は、お腹(なか)の右上のあたりに存在する、体内で最も大きい臓器です。主な働きに、①身体に必要な栄養の貯蔵とタンパク質の合成、②有害物質の解毒と分解、③胆汁(たんじゅう)の合成と分泌があります。

C型肝炎ウイルスは、血液をはじめとした体液を介して、肝臓に感染します。その後、特に症状がないまま、10年以上かけて慢性肝炎(まんせいかんえん)から肝硬変(かんこうへん)へ進行していきます。

肝硬変になると、肝臓は小さく硬くなり、働きも低下してしまいます。そのうえ、黄疸(おうだん)や浮腫(ふしゅ)、腹水(ふくすい)、食道胃静脈瘤(しょくどういじょうみゃくりゅう)が出現する危険性があります。さらに、肝がんを発症するリスクが高くなります。したがって、なるべく早いタイミングで、C型肝炎ウイルスを肝臓内から排除する必要があります。

治療法として、以前はインターフェロンというタンパク質を体内に補うための注射治療(インターフェロン治療)が中心でしたが、副作用が強く、治療効果も十分ではありませんでした。

2014年から、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という飲み薬による、インターフェロンを治療に使わないインターフェロンフリー治療が始まり、95%以上の患者さんが、2~3か月間の内服でC型肝炎ウイルスを排除できるようになりました。DAA治療は副作用がほとんどないため、年齢制限もなく、C型肝炎ウイルスに感染しているすべての患者さんが治療対象になりました。

当院では、C型肝炎に対してDAA治療を行うだけでなく、近隣の病院でDAA治療が不成功だった患者さんの血液から、DAAの薬やく剤耐性(ざいたいせい)ウイルス遺伝子変異検査(いでんしへんいけんさ)を行い、有効な再治療法を提案しています。

肝がんの原因の多くはC型肝炎ウイルスでしたが、インターフェロン治療やDAA治療が成功した患者さんが増加した結果、C型肝炎由来の肝がんは減少しています。さらに、肝がんを発症した人や肝がんで亡くなる人は明らかに減少しています(図1)。

グラフ
図1 肝がん罹患数と死亡数の変化
(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)をもとに作図)

このようにC型肝炎ウイルス治療は発展しましたが、まだ多くの人々が自身の肝炎ウイルス感染状況を把握していないことから、肝炎ウイルス検査の受検率の向上と新規感染予防が、現在の最重要課題となっています。

肝がんの最新治療

肝がんの治療法は、手術療法(しゅじゅつりょうほう)、局所療法(きょくしょりょうほう)、カテーテル療法、薬物療法などがあります。「肝臓の働き具合」と「肝がんの大きさと個数」で、治療法を決定します。肝がんの大きさが3㎝かつ個数が3個以内の初期の肝がんであれば、局所療法で肝がんをすべて治療できる可能性があります。

現在、局所療法は腹(ふく)部超音波検査装置(ぶちょうおんぱけんさそうち)で確認しながら、皮膚の上から肝がんに針を刺して、電気を使って焼く「焼灼療法(しょうしゃくりょうほう)」が主流です。

焼灼療法には「ラジオ波焼灼療法(はしょうしゃくりょうほう)(RFA)」と「マイクロ波凝固療法(はぎょうこりょうほう)(MWA)」があります(図2)。どちらも皮膚の部分的な麻酔のみで行います。治療時間も10分程度と短く、1週間前後の入院で治療できます。創(きず)のあともほとんど残らないことから、当科では、体にやさしい肝がん治療である焼灼療法を、積極的に行っています。

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図2 焼灼療法

当院の肝がん治療を支える最新技術

肝がんに対する焼灼療法の効果と安全性を高めるために、当院では「フュージョンイメージング機能」が搭載された、最新の腹部超音波検査装置(ふくぶちょうおんぱけんさそうち)を導入しています。これは、通常の腹部超音波画像と、あらかじめ撮影したCTやMRI画像を、磁気センサーを用いて同期させたうえで、リアルタイムに双方の画像を同一画面に表示する最新のシステムです。

さらに、通常の腹部超音波検査では確認が難しい肺の近くの肝がんに対して、人工的に胸水(きょうすい)や腹水を入れて、確実に病変を確認するようにしています。これらの最新技術と工夫によって、一般的には治療が難しい肝がんに対しても、確実かつ安全に焼灼療法を行うことができるよう努めています。

また、RFAとMWAを使い分けることで、より最適化した治療を行っています。最近では、可変式通電部(かへんしきつうでんぶ)(焼灼する範囲を5㎜から30㎜の範囲で変更し設定することができる穿刺針)を備えた最新の国産初のRFA治療装置を、静岡県内で最初に導入しました。これら最新技術を積極的に使って当院では体にやさしい肝がん治療を行っています。

図
図3 出張肝臓病教室実施校

更新:2023.10.26