薬を使ったがん治療とがん遺伝子検査の最前線
浜松医科大学医学部附属病院
腫瘍センター
静岡県浜松市東区半田山
がんとは?
がんとは、正常な細胞の遺伝子が変異することで、異常な細胞に変化(=がん化)してしまった病気の総称です。がん化した細胞は、体中に広がりどんどん増殖することで、正常な体の機能を失わせます。胃、肺、大腸、皮膚、骨など、全身のあらゆる臓器に発生します。
日本人では2人に1人が生涯のうちにがんになるといわれており、日本人の死亡原因の第1位を占める非常に重要な病気です。
薬を使ったがん治療
薬を使ったがん治療(=がん薬物療法)は、手術、放射線と並ぶ三大がん治療の1つです。がん治療に使う薬は大きく分けて、細胞障害性抗がん剤、分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)、ホルモン治療があり、がん細胞への攻撃方法にそれぞれ違いがあります(図1)。
- ●細胞障害性抗がん剤
- 細胞障害性抗がん剤は、がん薬物療法において最も代表的な薬で、一般的に“抗がん剤”といえば細胞障害性抗がん剤を指すことが多いです。種類も非常に多く、さまざまながんに広く使われています。
その名の通り、がん細胞に直接的なダメージを与える薬なのですが、同時に正常な細胞にもダメージを与えてしまうため副作用が強いという特徴があります。脱毛、食欲低下、免疫力低下は抗がん剤の副作用としてよく知られていますが、主にこの細胞障害性抗がん剤の副作用として起こります。いわば「毒を持って毒を制する」治療です。 - ●分子標的治療薬
- 細胞障害性抗がん剤に対して、分子標的治療薬は、がん細胞を狙い撃ちするように開発された比較的新しい治療薬です。がん細胞の表面にある「分子」を目印にして攻撃することが、名前の由来です。
細胞障害性抗がん剤のような副作用は起こりにくい一方で、肺や皮膚などに特殊な副作用が起こりやすいことが知られています。 - ●ホルモン治療
- ホルモン治療は、体の中にもともとあるホルモンの働きを利用した治療です。ホルモンとは、血液中に含まれて、さまざまな細胞の働きを調節する物質です。特定のホルモンによって小さくなる性質を持つ(=感受性がある)タイプのがんでは、ホルモン治療が有効です。細胞障害性抗がん剤や分子標的治療薬に比べると副作用が少ないのが特徴です。
これら3つの薬は単独で使われることもありますが、多くの場合、複数を組み合わせて使われます。そうすることで薬の効果が高まるので、相乗効果といわれます。
使う薬や組み合わせのパターンは、がんの種類によって大きく異なります。また、点滴のイメージが強い抗がん剤ですが、飲み薬もあります。
免疫チェックポイント阻害剤
最近、新しい薬物治療として、免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤が注目されています(図1)。免疫療法自体は以前から研究されてきましたが、しっかりとした有効性を示すものはありませんでした。免疫チェックポイント阻害剤は、これまでのがん薬物治療を上回る治療効果を示して、保険適用が認められた初めての点滴による免疫療法です。通常のがん薬物治療は、いずれもがん細胞に直接働いてがんを小さくするものですが、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫細胞にがん細胞を攻撃させるように働きかけます。
さまざまな種類のがんで免疫チェックポイント阻害剤治療が行われるようになっています。さらに、異なる免疫チェックポイント阻害剤同士や、細胞障害性抗がん剤、分子標的治療薬と組み合わせることでより効果を強める治療法や、新しい免疫チェックポイント阻害剤の開発などが、盛んに行われている注目の治療です。
ただし、これまでのがん薬物療法のような副作用が少ないのも特徴ですが、一方で、免疫関連有害事象という特有の副作用が出現することもあるため、治療に際しては注意が必要です。
がんゲノム検査
免疫チェックポイント阻害剤と並ぶ、最近のがん治療の大きなトピックの1つががんゲノム検査です。ゲノムとは遺伝子のことで、がんゲノム検査によってがん細胞の性質、言い換えれば“弱点”を知ることができるのです。
がん遺伝子に基づいた治療は以前から行われていましたが、ごく一部のがんに限られ、また調べる遺伝子も1~数個でした。
がんゲノム検査では、血液がんを除くほとんどすべての種類のがんに対して、一度に100以上のがん遺伝子を、通常の保険診療で調べることができるようになりました。がんゲノム検査によって、患者さんごとに異なるがんの性質に基づいた治療を探すことが可能になります(図2)。
さらに、これまでは肝臓や肺といった内臓から採取したがん細胞を使わないと検査を行うことができませんでしたが、最近では、採血でも検査を受けることができるようになり、より多くの患者さんが、がんゲノム検査を受けられるようになってきました。
更新:2023.10.26