最新の硝子体手術――より負担の少ない手術をめざして

浜松医科大学医学部附属病院

眼科

静岡県浜松市東区半田山

適応となる代表的な疾患

●硝子体混濁(しょうしたいこんだく)・出血
本来透明な硝子体が炎症や出血などによって濁ってしまう疾患。
● 裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり) 
網膜に穴(網膜裂孔)が形成され、網膜が剝(は)がれてしまう疾患(写真1)。
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写真1 裂孔原性網膜剥離(手術中)
大きな網膜の穴があり、周囲の網膜が剥がれています
● 黄斑上膜(おうはんじょうまく)・円孔(えんこう)
網膜の真ん中(黄斑部)がいびつになったり穴があいてしまう疾患。
● 開放性眼外傷(かいほうせいがんがいしょう)
眼のけがにより、眼球の内容物が眼外に脱出してしまう疾患。

硝子体手術とは

眼球の水晶体(すいしょうたい)より奥を占める、透明なゼリー状の組織を、硝子体といいます。加齢や疾患により性質が変化し、その後ろにある網膜を引っ張ってしまい網膜に穴があいたり、硝子体の出血や混濁を引き起こしたりして、視力が低下するなどの病状を引き起こします。この硝子体を切除するとともに、網膜に起こってしまった病気を治す手術を硝子体手術といいます。

白目(強膜(きょうまく))に3~4か所の小さな穴をあけ、そこから細い器具を眼内に挿入(図)し、濁ってしまった硝子体を取り除いたり、網膜の構造を改善させるなどの手術手技を行っていきます。ほとんどが局所麻酔で行われ、手術時間は病状によって20分~2時間程度とさまざまです。

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図 硝子体手術 模式図
硝子体の中にさまざまな器具を入れて手術を行います

疾患の診断・検査

目薬で瞳孔(どうこう)を広げた後に、細隙灯(さいげきとう)や倒像鏡(とうぞうきょう)という機器を用いて、眼の中を観察することにより、疾患の診断を行います。

黄斑疾患の診断には、光干渉断層計(ひかりかんしょうだんそうけい)(OCT、写真2)が抜群の威力を発揮します。正常画像と比較すると網膜の構造異常が一目瞭然であり、術後の回復具合や、どれくらいまでの視力改善が期待できるかなどの予後(*1)予測にも大きく貢献しています。

*1 予後/今後の病状についての医学的な見通し

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写真2 黄斑円孔(左:手術前、右:手術後)

対象疾患の拡大

手術器具や顕微鏡の開発・改良により、硝子体手術は近年めざましい進歩を遂げています。一昔前には治療の方法がなかった疾患に対しても、治療を行うことが可能になり、前述のような疾患に対する手術手技は、標準的にかなり確立されたものとして、良好な成績を得られるようになってきました。

結果が良好であることはもはや当たり前で、これをいかに患者さんの負担が少なく行えるかという時代になってきていることを感じます。そして、まだまだこの硝子体手術には秘められた可能性があることを感じさせられます。

当院では、確立された有効な治療方法が存在しない難治性疾患に対しても、もちろんその安全性を最大限に考慮したうえで、「治療を諦める」のではなく「できる限り精一杯努める」という姿勢を強く持ち、糖尿病黄斑症(とうにょうびょうおうはんしょう)(*2)に対する内壁切開術(ないへきせっかいじゅつ)(写真3)や、黄斑下血腫(おうはんかけっし)(*3)に対する網膜下空気・薬液注入術(写真4)といった手術も行っています。

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写真3 糖尿病黄斑症(手術中)
網膜の最も内側にある内境界膜を染色し、剥くことでむくみの軽減を図ります
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写真4 黄斑下血腫(手術中)
網膜の下に空気を注入することで空間を作成し、毒性のある血腫の黄斑部からの移動を図ります

一昔前には治せなかった疾患の治療が可能となってきたように、現在はまだ治すことのできない疾患を、治せるようになる未来をめざしています。

*2 糖尿病黄斑症/糖尿病により黄斑網膜に水が溜まり、むくみを起こす病気。手術では、網膜の一部を切開し、水分を排出する
*3 黄斑下血腫/黄斑網膜の下に血の塊が溜まる病気。手術では、網膜の下に空気や薬剤を注入し、血腫の移動を促して黄斑を保護する

体に負担の少ない硝子体手術

かつての硝子体手術は、傷口も大きく手術時間も長いものであったため、術後に強い炎症や合併症が引き起こされてしまうことがありました。

現在当院では、硝子体手術のほとんどを、傷口が0.4㎜と極めて小さい27ゲージという大きさで、より侵襲(しんしゅう)(体への負担)の低い手術を行っています。

手術のほとんどは局所麻酔で行い、患者さんの希望に応じて、日帰りか入院のどちらでも選択できるようにしています。

緊急を要する病態に対しては、専門の医師が分担しながら、24時間365日いつでも対応できるような体制を整えています。

更新:2023.10.26