血液がんに対する造血・免疫細胞療法

浜松医科大学医学部附属病院

血液内科

静岡県浜松市東区半田山

血液がんとは?

血液がんには、主なものとして白血病(はっけつびょう)、悪性(あくせい)リンパ腫(しゅ)、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)などがあります。近年、抗がん剤や分子標的治療(ぶんしひょうてきちりょう)の進歩で治療成績は良くなっていますが、治りにくい場合は、“がんに対する免疫攻撃”を利用して病気を治す造血(ぞうけつ)・免疫細胞療法(めんえきさいぼうりょうほう)も行われます。

最近では、患者さん自身のTリンパ球を体内から取り出し、がん細胞を認識して攻撃するように作り変えたCAR-T細胞(カーティーさいぼう)を用いて、難治性の血液がんを治療するCAR-T細胞療法が注目されています。

血液がんの治療

血液がんの治療には「抗がん剤」「分子標的治療」「放射線」「造血・免疫細胞療法」「支持療法」の5つの方法があります(図1)。具体的な治療薬は、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫によって異なりますが、まずは「抗がん剤」「分子標的治療薬」「放射線」を、単独もしくは組み合わせて治療をします。また吐き気止め、抗生物質、輸血など、副作用を軽くするために用いられるのが「支持療法」です。

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図1 血液がんの治療

血液がんの治療は劇的に進歩し、「抗がん剤」「分子標的治療」「放射線」を用いた治療で治る患者さんも多くなっていますが、これらを用いても効果が十分でない方もいます。一方、私たちがもともと体内にもっているリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)やNK細胞といった白血球は、体内にできたがん細胞を免疫の力で攻撃して排除する能力を持っていますが、がん細胞が免疫のしくみから逃れると、がんを発症したり再発したりします。この“がんに対する免疫攻撃”を利用して病気を治す治療が、「造血・免疫細胞療法」です。

造血・免疫細胞療法の種類

「造血・免疫細胞療法」の中で、よく知られているものが骨髄移植(こつずいいしょく)だと思います。骨髄移植は血液がんのうち、主に白血病の患者さんに用いられます。大量の抗がん剤や放射線を使って骨髄の中に残っている白血病細胞の数を少なくした後に、元気なドナーさんから採取した骨髄を、患者さんに点滴します。

この骨髄には、造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)といわれる血液成分(白血球、赤血球、血小板)の元になる細胞が含まれており、その細胞から新たにドナーさんの元気な血液成分が増えていきます。一方、リンパ球を主体としたドナーさんの免疫細胞は、患者さんの体内に残った白血病細胞を異物とみなして“がんに対する免疫攻撃”の力で病気を治してくれます。

造血幹細胞は、骨髄だけでなく末梢血(まっしょうけつ)(体の血管内を流れる血液)や臍帯血(さいたいけつ)(臍(へそ)の緒や胎盤(たいばん)に含まれる赤ちゃんの血液)にも含まれていて、どこにある造血幹細胞を使用するかで、末梢血幹細胞移植や臍帯血移植と呼ばれています。最近では、これらを合わせて、同種造血幹細胞移植(どうしゅぞうけつかんさいぼういしょく)と呼んでいます(図1)。

一方、悪性リンパ腫では、大量の抗がん剤治療を行った後、あらかじめ採取しておいた患者さん自身の末梢血幹細胞を点滴する、自家末梢血幹細胞移植が主に行われています。しかしこの方法では、免疫細胞であるリンパ球とがん細胞がともに自分自身のもので仲良しのため、“がんに対する免疫攻撃”の力が働きません。

最近、抗がん剤治療を含めた標準治療で治らないびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、ろ胞性リンパ腫(悪性リンパ腫の一種)、B細胞性急性(さいぼうせいきゅうせい)リンパ芽球性白血病(がきゅうせいはっけつびょう)(白血病の一種)の患者さんを対象にした、CAR-T細胞療法という新たな「造血・免疫細胞療法」が注目を浴びています。

CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法では、患者さん自身のTリンパ球を、特殊な機械を用いて体内から取り出した後、遺伝子操作の技術を用いてCARと呼ばれる特殊なタンパク質をTリンパ球が作り出すことができるように作り変えます。

CARは、血液がん細胞の表面にあるタンパク質(CD19抗原など)を見つけて、免疫の力を使って攻撃するように作られています。このように、血液がんに対して強力な免疫攻撃ができるようになったTリンパ球のことをCAR-T細胞と呼んでいます。

このCAR-T細胞を患者さんに再度点滴で戻すことにより、“がんに対する免疫攻撃”の力で治りにくい血液がんを治療する「造血・免疫細胞療法」が、CAR-T細胞療法です(図2)。CAR-T細胞療法は、抗がん剤治療などで治りにくい、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、ろ胞性リンパ腫といった一部のB細胞性リンパ腫、B細胞性急性リンパ芽球性白血病や、多発性骨髄腫の治療に用いられています。

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図2 CAR-T 細胞療法とは?

この治療方法は、有効性が期待される一方で、重い副作用が出ることもあるため、すべての患者さんに治療を提供できるわけではありません。当院では、CAR-T細胞療法のセカンドオピニオンも常時受けつけています。希望する患者さんは、主治医の先生とご相談ください。

更新:2023.10.26