早期発見が難しい膵がんの最新治療

浜松医科大学医学部附属病院

肝胆膵外科

静岡県浜松市東区半田山

膵臓とは?

膵臓(すいぞう)は、食べ物を消化するための酵素を分泌したり、血糖をコントロールするインスリンなどのホルモンを分泌する臓器です。胃の裏側・背骨の前側に位置し、十二指腸(じゅうにしちょう)、小腸、大腸、肝臓、脾臓(ひぞう)などに囲まれています。バナナのような形をした臓器であり、お腹(なか)の中で最も奥深くにあります。

膵がんがあっても、進行するまで症状が出ない、画像によく映らない、病気の進行が早いといった悪条件が重なるため、「暗黒の臓器」とも呼ばれています。

増加傾向にある膵がんとリスク因子

日本でのがん患者数は増加の一途をたどっていますが、膵がんでは特にその傾向が顕著です。

全国がん統計における膵臓は、男女を合計した全体のがん患者数では第6位、がん死亡数では第4位でした。膵がんの5年生存率は8.5%で、ほかの臓器と比較すると、最も予後(よご)(今後の病状についての医学的な見通し)が悪いがんです。

膵がんにはさまざまなリスク因子が報告されており、家族歴、合併疾患、生活習慣などがあります。膵がん患者の家族に膵がんが認められる割合は、3~10%とされます。家族性膵がんは、親、兄弟姉妹、子どものなかで2人以上の膵がん患者が発生した家系を指しますが、膵がんのリスクが約7倍高いとされています。

糖尿病患者さんは、膵がんのリスクが高く、特に糖尿病発症1年未満は、リスクが高いことが知られています。新たに糖尿病と診断された患者さんや急激に糖尿病が悪化した患者さんには、膵臓の精査をお勧めします。

また肥満や喫煙は、ほかのがんと同様に、膵がんでもリスク因子とされています。

膵がんの症状と診断

早期には無症状であることが多く、なんとなく上腹部(じょうふくぶ)に違和感があるといった程度です。進行すると体重減少や黄疸(おうだん)(体が黄色くなること)が出現したり、糖尿病が急に悪くなったりします。さらに進行すると、腹水(ふくすい)や血便などがみられることもあります。

症状が出現する前に見つけることが重要ですが、なかなか難しいのが現状です。腫瘍(しゅよう)が膵臓内に留まっている状態の割合はわずか7.4%に過ぎず(全悪性腫瘍の中で最少)、ほかの臓器にがんが広がっている割合は31.8%、遠隔転移(ほかの臓器に転移)がある割合は43.6%(全悪性腫瘍の中で最多)となっています。

血液検査で膵酵素(アミラーゼやリパーゼなど)の異常がみられる場合や、腫瘍マーカー(がんがあるかどうかの目安になる検査の値、CEAやCA19-9など)の上昇がみられる場合は、まず腹部超音波検査を行います。

腫瘍そのものが確認できなくても、膵管の拡張や狭窄(きょうさく)(細くなること)があったり、膵囊胞性病変(すいのうほうせいびょうへん)などの間接所見(がんが疑われる病変)を認めたりした場合には、CTやMRI、超音波内視鏡(EUS)などの精密検査を行います。

従来と大きく変わった膵がんの治療

これまでと違い、膵がんでは、手術・化学療法・放射線治療を組み合わせた集学的治療が行われることが多くなりました。

治療方針を決める大きな要素として、切除可能性分類(resectability)があります(図1)。

図
図1 膵がんの切除可能性分類
(日本消化器病学会 難治癌対策委員会「消化器難治癌シリーズ」『膵癌』P20 より引用)
切除可能(R)
主要血管への接触がなく、定型的な手術でがんを取り切れる可能性が高いもの
切除可能境界(BR)
主要血管に浸潤(しんじゅん)(がんがまわりに広がっていくこと)が疑われ、定型的な手術ではがんを取り切れない可能性が高いもの
局所進行切除不能(UR-LA)
主要血管へ浸潤し、切除が困難なもの
遠隔転移切除不能(UR-M)
遠隔転移があり、外科的切除の効果は極めて限定的と考えられるもの

従来は、切除可能(R)、切除可能境界(BR)ではまず手術が行われていました。

しかし最近では、切除可能(R)な状態であっても、一定期間の化学療法を行うことが増えています。また、切除可能境界(BR)と局所進行切除不能(UR-LA)では長期間の化学療法を行い、放射線治療を追加してから手術の可能性を再検討することが勧められるようになりました(図2)。

図
図2 膵がんの治療方針

遠隔転移切除不能(UR-M)であっても、長期間の化学療法を行って、がんをしっかりコントロールできている状態であれば、根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)をめざして手術を行うこともあります。

更新:2023.10.26