不整脈とたたかう-カテーテルアブレーション治療
藤田医科大学病院
循環器内科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
カテーテルアブレーション治療
カテーテルアブレーション(心筋焼灼術(しんきんしょうしゃくじゅつ))は、心臓の中にできた異常な電気的興奮を、カテーテルで焼灼して正常な興奮へ戻す治療です。不整脈の根治(こんち)が期待できます。足の付け根や首の静脈から、先端に電極が付いた径数mmの細長い管(電極カテーテル)を挿入し、心臓の中に留置します。そして、心臓内の電気回路を記録し、不整脈の診断をしたり、治療が必要な場所を特定したりします。治療が必要な場所にカテーテルを進め、高周波電流を流すと、カテーテルと接した組織は熱で焼灼され、電気興奮ができなくなり不整脈が消失します(図1)。2019年に当院では344件のカテーテルアブレーション治療を行いました。
適応と入院期間
カテーテルアブレーション治療の適応となるのは、心房細動(しんぼうさいどう)、上室性頻拍(じょうしつせいひんぱく)、WPW症候群、心房粗動、心室頻拍(心室期外収縮を含む)などです。当院ではすべての対象不整脈の治療が可能です。入院期間は心房細動で5日程度、心房細動以外の不整脈で2~3日です。カテーテルアブレーション治療は、1~4時間程度で、翌日には歩行できます。
当院では、治療中の苦痛を和らげるために鎮痛剤、鎮静剤を積極的に使用し、(原則として)深く眠った状態で治療を受けていただきます。退院後の生活、仕事の制限はありません。
心房細動とは
高齢社会に伴って増えている不整脈です。心房が痙攣(けいれん)を起こしたように無秩序に興奮します。脈の乱れ、動悸(どうき)、胸部不快などを自覚します。放置すると心房内に血栓ができ、脳梗塞(のうこうそく)の原因になります。血液循環が停滞すると心不全が増悪します。認知症のリスクも増加します。症状がない場合もありますが、病院の受診が遅れるため予後が悪いことが報告されています。心房細動は7日以内に自然に停止するもの(発作性心房細動)、7日以上持続するもの(持続性心房細動)、1年以上持続するもの(長期持続性心房細動)に分類されます。持続時間が長くなるにつれて、治りが悪くなります。
心房細動のカテーテルアブレーション治療
心房細動の原因となる肺静脈の異常な興奮を電気的に隔離する治療法です。肺静脈の付け根をカテーテルで焼灼します(拡大肺静脈隔離、図1)。1回の治療で、発作性心房細動や持続性心房細動では約8割、長期持続性心房細動では約7割の患者さんで正常の興奮が維持されます。再発した場合は2回目の治療で、発作性心房細動や持続性心房細動では9割以上、長期持続性心房細動でも約8割の患者さんで正常の興奮が維持されます。
3次元マッピング装置
3次元マッピング装置と呼ばれる特殊機器の進歩によって、効率的かつ安全なカテーテルアブレーション治療が行えるようになりました。当院ではすべての最新機器を使用できます。また、(長期)持続性心房細動では心房細動の異常な興奮を可視化し、個々の患者さんの病気の原因を追究して治療に結びつける新しい装置(ExTRa Mapping)も導入し、より難しい治療の成績向上に役立てています(図2)
バルーンアブレーション
先端にバルーン(風船)がついたカテーテルを、肺静脈の根元に圧着させて焼灼する治療法です。発作性心房細動に対して保険適用があります。高周波による焼灼よりも、短時間かつ確実に治療できる方法として期待されています。当院ではクライオバルーン(冷凍焼灼)、ホットバルーン(熱焼灼)、レーザーバルーン(レーザー焼灼)が使用できます(図3)。ただし、肺静脈の形態よっては治療に適さない場合があり、当院では事前に心臓CTを撮影して解剖を把握し適応を決めています。
主な合併症
代表的な合併症は心タンポナーデと脳梗塞です。当院での最近3年間(2017~2019年)の心タンポナーデの頻度(ひんど)は0.2%、脳梗塞は0%、死亡は0%でした。術中のカテーテル操作はもちろんのこと、周術期の抗凝固療法にも細心の注意を払って合併症の予防に取り組んでいます。当院では、不測の事態に備えて緊急処置や、手術の対応が可能なハイブリッド手術室で治療を行います。大学病院ならではの心臓外科や脳卒中科との連携も充実しており、患者さんに安心して治療を受けていただける体制を整えています。
心房細動のトータルケア
当院では術前に採血、胸部レントゲン、心電図、心臓超音波、心臓CTなどの検査を行い、心房細動の重症度や病態を評価します。そして、患者さんに最も適した治療方法、機器を選択します。入院中には睡眠時無呼吸症候群や脳MRIなどの検査も行います。心房細動と関連する生活習慣病にも積極的に介入し、治療後の再発を予防します。
更新:2024.10.18