肺がんの診断と治療

藤田医科大学病院

呼吸器内科 アレルギー科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

最新の技術を駆使した肺がんの内視鏡診断

肺がん医療の第一歩は、症状のない段階で、できるだけ早く発見して治療にあたることです。CTの技術が進歩した現代では、これまで普通のレントゲン写真ではとても見つけられなかった小さなサイズの肺がんが見つかるようになりました。しかしCTでは、同時に肺の中に自覚症状のないまま起こった小さな感染症(肺炎や結核、カビの病気など)やその傷跡、良性の腫瘍(しゅよう)など肺がん以外の病気も見つかってきます。

残念ながら、これらの良性の病気(がんではない病変)と肺がんを画像だけで確実に区別する方法はありません。そのため、これらの小さな病変から細胞を採取して、がんであるのかそれ以外の病気であるのかを診断する必要があります。それは、がんとそれ以外の病気では、治療方針も、使用する薬も全く違うためです。特に小さな病変からの細胞の採取は難しく、最初から手術を行って病巣の一部を採り、大急ぎで病理医にがんかどうかを判断してもらう方法もありますが、がんでなかった場合、患者さんには全身麻酔を伴う手術の負担をかけてしまうことになります。

また、手術中のごく短時間で細胞や組織を処理して病理検査をする必要があるので、通常の病理診断よりも判定が難しい場合もあります。そこで、もっと体の負担を少なくがんを診断することが必要ですが、現在のところ、最も体にやさしく(肺を切ったりせずに)診断する方法は、内視鏡(気管支鏡)による診断です。

肺の中は気管支が樹木の枝のように張り巡らされており、理屈からいえば肺のどの場所にも気管支をたどって到達できるわけです。しかし実際には、直径3cmを越えない病変に内視鏡で到達するのは決して容易ではありません。私たちは放射線科と協力して、最新鋭の胸部CT画像と気管支内超音波の技術を駆使し、肺の小さな病変を確実に診断する技術を磨いてきました。

「図」に示すように、病変に到達する気管支をCT画像で見極めた後、超音波探索子(プローブ)を細いチューブ(ガイドシース)を被せたまま病変の内部に誘導し、超音波で病変を確認します。病変の中に確実に入っていれば、はっきりと超音波画像が得られます。その後、ガイドシースだけ残してプローブを抜去し、チューブの中を通して小さな鉗子(かんし)(組織をつまむ道具)で確実に病変から組織採取(生検)を行います。この技術を用いることで、これまで診断の難しかった小さな病変も確実に診断し、治療方針を正しく決めることができるようになりました。また患者さんは、点滴で鎮静をかけた状態で内視鏡を受けるので、ほとんどの方は検査のことを覚えていません。内視鏡を受ける苦痛を最大限少なくして検査を受けていただくことができます。

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図:肺の小さな病変に対する気管支鏡生検

多職種で行う正確な診断と治療方針の決定

肺がんの診断には前記の病理診断に加えて、がんがどこまで広がっているのか(転移があるかどうか)を診断すること(病期診断)が必要になります。肺がんでは肺の中のリンパ節、肺の中の別の箇所への転移が多くみられます。また肺以外では脳、骨、肝臓、副腎(ふくじん)といった他の臓器にも転移(遠隔転移)を起こすことがあります。これらを正確に診断することが治療方針の決定には重要です。

がんが小さく転移がないか、がんの周囲のみの転移であれば手術や放射線治療が選択されることが多く、遠隔転移があれば薬物療法が主体となります。病期診断が不正確では、せっかく治療を行っても良好な結果が得られません。そのため、私たちは肺がん患者さん一人ひとりの診断、そして治療方針の決定を、毎週の症例検討会で呼吸器内科・外科の専門医、放射線科専門医、薬物療法専門医がチームとなって徹底的に議論して決定します(写真)。

写真
写真:多職種で診断・治療を検討する症例検討会(藤田医科大学呼吸器内科HPより)

また最近、がんの薬物療法はめざましい進歩をとげ、従来の抗がん剤に加えて、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬といった新しい薬剤が次々と開発され実際に使用されています。がんは遺伝子のどこかに異常をきたしてしまった細胞から発生しますが、分子標的薬は、この異常になった遺伝子の働きをピンポイントで抑さえ込む薬です。そのため、標的になる遺伝子異常のある肺がんを正確に見つけだして使用すれば、これまでの薬では得られなかった大きな縮小効果を得ることができます。また免疫チェックポイント阻害剤は、患者さんのリンパ球の力を最大限に利用することでがんを縮小させるもので、効果が得られる一部の患者さんでは、従来の治療では得られなかった長期にわたる効果を得ることができる治療です。

いずれの治療も、これまでにない副作用もあり、使用すべき患者さんを正確に選択することが大変重要で、このためには高度な知識と豊富な臨床経験を必要とします。私たちのチームでは経験豊富な呼吸器内科医と薬物療法専門医が、患者さんの持っている合併症、社会的な背景、本人の希望なども加味し、前記の検討会で議論を重ねた上で選択する薬剤を決定しています。

すべての肺がん患者さんに最適の治療を

肺がんは比較的高齢の方や肺の合併症(喫煙による肺気腫(はいきしゅ)・COPD、肺線維症など)を持つ人にも多く発生します。せっかく早期に発見されても年齢や合併症のために、診断のための検査をすることさえも危険と判断されてしまうケースも少なからずあります。私たちのチームは、多くの専門家と高い技術力を備えており、すべての肺がん患者さんに、その方にあった最適な治療を提供できるよう体制を整えています。治療することが、患者さんの寿命を縮めてしまうことが明らかな場合には、最適なサポート治療を提供することもあります。患者さん一人ひとりに分かりやすく病気の状況と治療の効果・副作用を説明し、患者さん自身の人生観も十分配慮した上で、患者さんを中心に主治医チーム、メディカル・スタッフすべてが協力して診療にあたっています。すべての患者さんに最適な治療を提供することが私たちの信念です。

更新:2024.10.08