内視鏡を用いた唾石摘出術

藤田医科大学病院

歯科・口腔外科 小児歯科・矯正歯科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

唾石――唾液腺にも石ができる?

唾液(だえき)(つば)は、主に耳の前にある耳下腺(じかせん)、下あごの内側にある顎下腺(がっかせん)や舌下腺(ぜっかせん)などの「唾液腺(だえきせん)」という臓器の中で作られます(図1)。唾液腺で作られた唾液は、細い管を通って口腔(こうくう)内(口の中)に排出されます。ところが、なんらかの原因でこの管の中に石が形成され、唾液が詰まってしまうことがあります。この石を“唾石(だせき)”と呼びます(写真1)。尿路結石や胆石をイメージしていただくと分かりやすいのではないでしょうか。

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図1:唾液腺の位置
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写真1:摘出された唾石

唾石は20~60歳代を中心とした幅広い年齢層の患者さんに発生します(図2)。

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図2:当科で手術を行った唾石の患者さんの分布(2005〜2019年)

唾石ができると、食事のたびに唾液腺が痛む・腫(は)れるといった症状が現れます。しかし、自覚症状がなく、歯科のレントゲンなどで偶然発見されることもあります。唾石の9割ほどは顎下腺につくられるため、あごの下が腫れるのが一般的です。本項では顎下腺に生じる唾石について解説します。

顎下腺の構造

顎下腺は下あごの内側に左右1個ずつある臓器で、食事の際に粘り気の強い唾液を産生し、下の前歯の内側にある「舌下小丘(ぜっかしょうきゅう)」という穴から排出します。噛み砕いた食べ物は唾液によってまとめられ、のどに送り込まれるのです。

唾石が形成されると唾液の排出が悪くなるため、顎下腺が腫れ、痛みを伴うことがあります。このような症状を放置すると徐々に顎下腺の機能が悪くなり、唾液の産生が減少するため、腫れや痛みも軽減するという特徴もあります。

従来の唾石摘出術とは?

唾石を摘出する手術として、あごの下の皮膚を切開する「口外(こうがい)法」と、口の中の粘膜を切開する「口内(こうない)法」があります。

唾石が顎下腺の中に存在する場合や、顎下腺が繰り返し炎症を起こしている場合には、口外法が選択されます。首の皮膚に4~5cmほどの切開を加え、顎下腺ごと摘出します(写真2)。唾石を確実に摘出できる方法ですが、外から見える位置に傷が残ってしまうほか、一時的な症状ですが、3割ほどの患者さんで唇の動きが悪くなることがあるのが欠点です。

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写真2:口外法の皮膚切開

唾石が顎下腺よりも口腔内に近い場合には、口内法が選択されます。最も深い、顎下腺のすぐそばに唾石が埋まっている場合では、舌と歯茎の間で2cmほどの切開を加え、唾石が詰まった管を探し当て、唾石のみ摘出します(写真3)。皮膚には傷は残りませんが、狭い口の中での作業となるため、熟練した技術が必要です。また、一時的に舌の感覚が鈍くなることがあります。

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写真3:顎下腺の位置(○)と(A)口内法、(B)内視鏡下手術の切開

当科では顎下腺の摘出による唾液の減少を防ぐことを目的に、口内法による唾石摘出術に積極的に取り組んできました。顎下腺よりも口腔内に近い唾石に関しては、口内法での摘出が98.8%(83/84例)という高い成功率を誇っています(2005〜2019年)。

内視鏡を用いた最新の唾石摘出術

一方、2009年に唾液腺手術用の内視鏡が国内で承認され、2014年からは保険適用となりました(写真4)。内視鏡を使用した顎下腺唾石の摘出は、舌下小丘のすぐそばを数ミリ切開するのみで行えること、舌の感覚に関係する神経への影響が口内法よりも少ないこと、などが利点として挙げられます。直径1.6mmという非常に細い内視鏡を用いるため、摘出できる唾石の大きさは7mm程度までと制限はありますが、従来よりも体への負担が小さくなる可能性のある手法です。

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写真4:唾液腺内視鏡(Marchal式)©KARL STORZ資料:カールストルツ・エンドスコピー・ジャパン株式会社

当科でも2018年より、愛知県内の歯科口腔外科としては初となる内視鏡を用いた唾石摘出術を開始しました(写真5)。内視鏡単独で摘出できなかった場合でも、私たちが得意とする口内法への切り替えがスムーズであることから有用性は高く、患者さんの希望を参考にしながら活用しています。

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写真5:内視鏡による唾石摘出術(鉗子(かんし)を使って唾石を掴むところ)

唾液腺内視鏡手術の未来は?

海外では、大きな唾石に対しても、尿路結石などに使用するレーザーなどで細かく砕いてから摘出する方法が報告されています(国内では未承認)。また、内視鏡を用いた顎下腺の摘出も報告されており、本領域の手術はこれからも発展が続きそうです。

顎下腺が腫れるほかの病気

唾石のほかにも顎下腺が腫れる病気があります。顎下腺の炎症である顎下腺炎は、虫歯や歯周病の原因となる細菌が感染することでも起こります。また、シェーグレン症候群やIgG4関連疾患のような免疫異常や、顎下腺腫(しゅよう)瘍なども挙げられます。歯科口腔外科や耳鼻咽喉科などの専門医を受診することをお勧めします。

更新:2022.03.08