甲状腺腫瘍の適切な治療

藤田医科大学病院

内分泌外科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

甲状腺腫瘍の手術

当科では甲状腺の細胞診で甲状腺がんと診断されたケースでは、原則手術になります。ただし、このうち乳頭がんは大きくなるスピードが遅く、肺や肝臓などの他の臓器への転移が少ないため、1cm以下の乳頭がんで手術を希望されない人には、条件が満たしていれば定期的に経過を観察することで対応しています。

甲状腺乳頭がんに対する手術では、腫瘍(しゅよう)サイズが2cm以下、周囲に高度な浸潤(しんじゅん)がない、そしてリンパ節転移・遠隔転移がないケースでは、甲状腺を半分切除すること(片葉切除術)を原則としています。

また4cm以上、周囲に高度な浸潤がある、高度なリンパ節転移が存在する、遠隔転移がある、のいずれかをみたすケースでは甲状腺全部を切除(甲状腺全摘術)することをお勧めしています。

またこれ以外のケースでは片葉切除術にするか全摘術にするかは、メリット・デメリットを十分説明し、患者さんと時間をかけて相談して決めています。甲状腺乳頭がんは頸部(けいぶ)のリンパ節に転移をすることが多いので、極力、頸部での再発をしないように確実な必要範囲のリンパ節の切除(リンパ節郭清術(せつかくせいじゅつ))を施行しています。

甲状腺の細胞診で腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)や、ろ胞腺腫(ほうせんしゅ)と判断されたしこりがろ胞がんであるといけないので、原則として、4cm以上、次第に大きくなってきているなどのしこりのある患者さんには手術をお勧めしています。しかし、これらががんである可能性は3~20%程度なので、手術を希望しない患者さんには定期的に外来で経過を観察しています。

髄様(ずいよう)がんは家族性に発症することがあり、これはRETという遺伝子の異常によることが知られています。ですから髄様がんと診断した場合はこの遺伝子診断をお勧めしています。ただし、遺伝子診断は社会的にデリケートな問題を含みますので、当院の臨床遺伝科で遺伝子診断のカウンセリングを受けた上で、遺伝子診断を受けるかどうかを決めていただいています。

甲状腺手術におけるリスクには、反回神経(はんかいしんけい)の損傷と副甲状腺機能低下症(ふくこうじょうせんきのうていかしょう)があります(図1)。

イラスト
図1:甲状腺周囲の組織
反回神経は甲状腺の後ろにある細い神経。副甲状腺は米粒大で原則4個あります

私たちは、必要なケースでは手術中に神経モニタリングシステムを用いて、反回神経を損傷しないようにしています。当科で施行した甲状腺全摘術のうち、副甲状腺の機能が生涯にわたり低下するケースは約1%で、甲状腺腫瘍ガイドラインが許容する4%の頻度(ひんど)を大きく下回っています。

甲状腺がんの再発への治療

一部の患者さんで乳頭がんは、主として頸部のリンパ節に、ろ胞がんは主として肺や骨に転移することがあります。手術で甲状腺を全部切除した患者さんで、術後に再発する可能性が高いと判断した場合は、放射線科と連携して放射性ヨウ素カプセルを術後1か月頃に服用してもらうことがあります。乳頭がん・ろ胞がんの再発病変が出現してきた場合には、その進行は遅いので経過を観察することもありますが、切除が必要な場合は可能であれば原則再手術を行います。切除が不可能な患者さんには大量の放射性ヨウ素を用いた治療(放射性ヨウ素内用療法(ほうしゃせいようそないようりょうほう))を手配しますが、その効果が乏しいと判断した患者さんには、近年認可された抗がん剤の仲間である分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)(レンバチニブ・ソラフェニブ)を服薬してもらいます。

これらは治療の効果が期待できる反面、副作用を伴うことが多いため、臨床腫瘍科と連携し、その適切な投与量を設定しています。また髄様がんの再発には放射性ヨウ素内用療法は行いませんが、レンバチニブ・ソラフェニブに加えて、バンデタニブという分子標的薬治療が可能となっています。低分化がんは乳頭がんやろ胞がんに比べ、進行の速い再発をするケースが多く、また未分化がんはさらに進行が速く、発見されてもほとんどのケースで手術が不可能なことが多いのですが、こういった患者さんへも分子標的薬を中心に治療にあたっています。

甲状腺腫瘍が見つかった患者さんへ

手術を受けてもらうかどうかは、患者さんと個別にしっかりと相談して決めていきます。また手術を受ける患者さんには豊富な手術経験のもと(図2)、手術合併症を起こさないことを最優先事項とすることを約束しています。手術後も定期的に受診していただき、再発していないかのチェックをきちんと行っています。また甲状腺ホルモン剤の服用が必要な患者さんには受診のときに採血検査を行い、適切な甲状腺ホルモン剤の投与量を検討し処方しています。切除ができない、甲状腺がんが再発した患者さんには他科と密に連携し、ベストな治療を提供しています。

グラフ
図2:当科における甲状腺がん手術件数

更新:2024.10.07