藤田医科大学の緩和医療・患者ファーストの八本柱とその実践

藤田医科大学病院

緩和医療科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

緩和医療とは

「緩和ケア」「緩和医療」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?「ホスピス」や「終末期医療」といったことばを連想する方が多いと思います。もちろん、終末期がんの患者さんが最期を迎える場所として当院の緩和ケアセンター(緩和ケア病棟)を利用することもありますが、決してそれだけではありません。緩和ケアは、がんの診断や治療とともに始まる医療です(図1)。

図
図1:緩和ケアの考え方の変遷

緩和医療の八本柱

藤田医科大学の外科・緩和医療学講座(緩和医療科)は、2003年10月1日に、わが国最初の、世界で23番目の緩和医療学講座として誕生しました。最初は七栗記念病院(三重県津市)だけに緩和ケア病棟がありましたが、2010年3月に藤田医科大学病院に19床の緩和ケア病棟を開設し、さらに2018年5月からは計37床と増床し、現在の緩和ケアセンターがオープンしました。患者さんや家族の多種多様なニーズにお応えできるように誠心誠意、患者ファーストで活動しています。基本となるのが「緩和医療の八本柱」です(表)。

表
表:緩和医療の新しい試み・八本柱

①癒し環境の提供

すべての療養環境で必要なことですが、癒し系絵画の鑑賞や音楽療法、アロマセラピー、マッサージなども含めて、患者さんに心地よく過ごしていただける環境を整えています。

②全人的医療の実践

病棟コンセルジュを設置し、患者さんおよび家族からの要望の実現を図り、外来初診時や入院時に、病状や症状の経時的変化について分かりやすく説明し、「人生会議」を含めて、患者・家族とともにどのように過ごしていくかを一緒に考えてまいります。また痛みについても医療用麻薬を適切に使用し、疼痛(とうつう)の原因を追究し、除去に努めて痛みを和らげます。

③緩和ケアNST(栄養サポートチーム)の設立

2003年七栗記念病院で行った緩和ケア病棟入院時の栄養状態を調査した結果では、8割以上の患者さんが高度の栄養障害でした。そこで私たちは患者さん個々人の病状に併せて最適な栄養管理を提言する、わが国初の緩和ケアNSTを立ち上げ、栄養障害の是正、必要な栄養素を含む補助栄養食品の開発、利用を推進しています。これにより一度はあきらめかけた在宅療養が叶うかたも増えています。

④コミュニティ(相補的支援システム)の構築

病院では、お互いを知ることもなく孤独に闘病生活を続けておられる患者さんが少なくありません。当科では個室の並ぶ、いわば「長屋」形式の緩和ケアセンターに、コミュニティルームという「井戸端(いどばた)」を導入し、週1回のお茶会や各種のイベントを通して、緩和ケアセンター入院中の患者さんや家族との社交の場を提供しています。これはお互いを助け合う支援の輪を生み、他の家族と交流することで励まされ、癒されたとの声が聞かれています。

⑤腫瘍学の導入

「緩和ケア」というケア中心の医療から、がんの代謝動態など科学的な追及を行い、“ひとはどのように最期を迎えるのか”について常に考えながら診療・研究を行っています。2007年から月に一度「緩和ケアキャンサーボード」を行い、医師以外に看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師等のスタッフが集まり、各職種の専門性を生かした議論を行って明日からの診療に役立つよう努力しています。

⑥自立型地域連携の創設

急性期医療、慢性期医療、在宅医療を行う上で、地域の医療機関、施設等との連携が欠かせません。当科では2009年より三重緩和医療研究会、2011年より愛知緩和医療研究会をそれぞれ立ち上げました。さらに2014年からは地域連携ネットワークを発足させ、インターネット双方向システムを用いた勉強会を月1回開催し、参加いただく地域の皆さんと「顔の見える関係づくり」を続けています。

⑦情報共有と発信力の強化

当科スタッフはネットワークを通じた交流で、病院だけではなく、診療所や在宅施設などと、迅速な情報共有を行うとともに、ホームページやさまざまなソーシャルメディアネットワークを通じて当科の取り組みを発信しています。

⑧幸せな人生の提示(劇場型緩和ケアの開発)

患者さん一人ひとりには歴史があります。その人を全人的医療で支えるためには、その背景を知り、どんな苦痛を感じているのか、どのようにすれば「いきいきと生き、幸せに逝く」ことができるのか、私たちは多職種のチームで情報を共有し、幸せに生きることができるように支援しています。

緩和ケアセンターの構築

これらの緩和医療を実現するためには、緩和ケアセンターと緩和ケアチーム、緩和医療科の外来および訪問看護ステーションなどの在宅医療部門がうまく連携をしていくことが必要不可欠です。私たちはすべての部門を有機的に結び付けて「緩和ケアセンター」(図2)を構築し、これからもがん患者さんや家族の幸せを支えていければと思います。

図
図2:緩和ケアセンター

更新:2022.03.08