抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の活動

藤田医科大学病院

感染症科 薬剤部

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

はじめに

皆さんが病院でよく処方される薬の1つに抗菌薬があるのではないでしょうか。

抗菌薬は感染症の治療に使われる薬で、皆さんの体の中に入って悪さをする小さな侵入者をやっつけることで効果を発揮します。抗菌薬は約80年前に登場し、“魔法の弾丸”や“20世紀最大の発明”にたとえられるほど優れた効果を示し、感染症は薬を使えば治る病気として広く認識されるようになりました。しかし近年では抗菌薬の効きにくい細菌、いわゆる耐性菌による感染症が問題となっています。

なぜこのような現象が起こったのでしょう。実は細菌は抗菌薬にさらされると、自身の遺伝子に変異を起こして生き残ろうとする潜在能力を発揮することがあります。また、細菌同士で薬に抵抗するための遺伝子をやり取りして生き残ることもあります。

一方で現在の高度な医療では、患者さんの免疫力を下げる治療も多々実施されており、感染症を予防するために抗菌薬を長く使用することがしばしばあります。

このように抗菌薬が広く使われるようになったことで細菌が抗菌薬に接する機会が増え、さまざまな場所で耐性化が促された結果、抗菌薬が登場した時代に比べて、今では耐性菌に出くわすケースが増えているのです。

薬剤耐性菌の蔓延化を阻止するために厚生労働省は、ASTの設置を推奨しています。これを受け当院では、感染症科医師、看護師、検査技師、薬剤師で構成されたASTを発足して各診療科への支援体制を構築しています。ここで私たちASTの仕事の一部を紹介したいと思います。

サーベイランス(院内疫学調査)

一般に感染症の原因菌を特定する検査には数日を要します。このため初期治療において、医師は診察から得た情報をもとに、どこの臓器で感染を起こしているのかを考え、そこから想像される複数の菌に対して、どの抗菌薬で治療するか選択します。しかし、病院ごとに抗菌薬の使用状況が異なるため、同じ名前の細菌でも病院ごとに抗菌薬の有効性が異なってきます。そのため、ASTでは感染症科医師を中心に、定期的に細菌ごとの薬剤の有効性を調査(サーベイランス)して公表することで、当院における抗菌薬治療の薬剤選択をサポートしています。

抗菌薬適正使用の推進と教育活動

治療の標的となる細菌が分かったら、直ちにその細菌に最も有効な薬剤への切り替えを行い、加えて治療期間を考える必要があります。

このとき、多くの抗菌薬は腎臓(じんぞう)や肝臓を介して体の外へ排泄されていくことに留意し、患者さんそれぞれに適した投与量を検討する必要があります。

当院のASTでは、所属する看護師と薬剤師が、病院内で抗菌薬を使用されている患者さんを把握し、抗菌薬の切り替えや、投与期間、投与量が適切であるかのチェックを行い、その内容を感染症科医師と週に2回、ASTカンファレンスで検討する仕組みをとっています。この検討会の結果を参考に、感染症科医師は必要に応じて主治医の先生へアドバイスを行い、質の高い感染症治療を提供しています。

写真
写真:ASTカンファレンス

また、感染症科医師は日々変化していく抗菌薬治療の実際について、具体的な症例を用いて定期的に講義を行い、当院に勤務する医療従事者の教育にも努めています。

治療薬物モニタリング(TDM)

抗菌薬は一般的に細菌だけに作用してヒトへの安全性が高いものが多いのですが、中には体からの排泄が遅れて蓄積してしまうと腎臓や聴覚に副作用を及ぼすものもあります。

こうした特殊な抗菌薬を使用する場合は、特に血液中に存在する抗菌薬の濃度に注意を払う必要があるため、薬剤師は抗菌薬を投与してから次の投与までに体から排泄される薬剤の量をモニタリングし、適切な濃度になるように投与量、投与方法を主治医に提案しています。

グラフ
図:TDMのイメージ。患者さんの血液中の抗菌薬が適切な濃度になるようモニタリングします

血液培養陽性患者さんの診療サポート

血液は本来、細菌の存在しない清潔な臓器なのですが、重症な感染症では菌が血管に侵入し、血液を伝って新たな臓器へ侵攻することで、失明や心臓疾患を誘発し、より深刻な感染症になることがあります。当院では、血液に細菌が侵入した場合、感染症科医師が適切な抗菌薬の選択と必要になる検査内容を検討し、主治医と一緒に感染症治療を行う仕組みを構築しています。

終わりに

抗菌薬は医療の根幹を支える重要な薬で、未来に残す大切な財産でもあります。

感染症科とASTは職種を超えて協力し合い、抗菌薬使用の適正化を通じて皆さんの治療を支援しています

更新:2022.03.08