呼吸器外科における最新のロボット支援手術

札幌医科大学附属病院

呼吸器外科

北海道札幌市中央区

低侵襲なロボット支援手術

当科では、これまで胸腔鏡(きょうくうきょう)(カメラ)を用いた完全胸腔鏡手術を行ってきました。2018年4月より、肺がんと縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)(縦隔とは心臓や大血管・気管・食道など重要な臓器が存在する体の中心部分で、そこにできる腫瘍)に対してロボット支援手術が保険適用となり、当科では同年4月よりロボット支援手術の症例を積み重ねてきています。2021年4月現在、肺がんに対する肺葉(はいよう)切除と肺区域切除、良性縦隔腫瘍、悪性縦隔腫瘍に対して保険診療でロボット支援手術を行っています。最近では、特に肺機能の悪い肺悪性腫瘍の患者さんに対して、肺機能を温存可能な、ロボット支援による肺区域切除術も積極的に施行しています。

棒グラフ
図 呼吸器外科のロボット支援手術の推移

当科の胸腔鏡による胸部手術では、肋骨(ろっこつ)や胸骨、筋肉などの胸壁に阻まれるせいで手術器具の挿入角度が制限されることにより直線的な操作に限定されるという欠点があります。しかし、ロボット支援手術では胸腔鏡手術での欠点を補った手術が可能となります。

【メリット】

  • 側胸部に約3㎝の小切開と8mmのポート(小さな孔(あな))が3か所、10mmのポートが1か所の低侵襲(ていしんしゅう)(体に負担の少ない)手術(しゅじゅつ)であり、ポートにかかる負荷が小さいため、術後疼痛(とうつう)(痛み)も軽い。
  • 多関節を持った各種器具により、胸の中での操作性が格段に向上している。
  • 立体の高画質の画像や術野の拡大視。手振れ補正などの機能により、精細緻密な操作を手助けする機能が備わっている。

これらは肺がんに対するリンパ節郭清(*)術(せつかくせいじゅつ)や縦隔腫瘍において、特に有用だえられています。縦隔腫瘍に対しては、以前は開胸術や胸腔鏡での手術が主流でしたが、巨大な腫瘍を除き、2018年以降ほぼ全例ロボット支援手術を行っています。

現在、多くの肺がんや縦隔腫瘍に対するロボット支援手術を行っており、2021年からは見学教育施設にもなっています。当科でのロボット支援手術も胸腔鏡手術と同様に、手術時間も短く、出血量や合併症発生率も低く、体に負担の少ない手術です(写真1、2)。

写真
写真1 術中風景
写真
写真2 縦隔腫瘍術後の創部。以前の術式(正中切開)と比較して傷が小さくなっています

*リンパ節郭清:手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること

肺機能温存のための肺区域切除について

2021年度後半より特に意欲的に進めているのが、ロボット支援による肺区域切除術です。ロボットでの精密な手術操作に加え、術中にインドシアニングリーン(生体に害のない色素)を注射することで、適切な切除区域を見ることができるようになりました。肺区域切除は2cm以下の早期の肺がんや、転移性肺腫瘍、肺機能が低下している患者さんに対して行います(写真3)。

写真
写真3 インドシアニングリーンによる切除区域の同定(緑色に光っている部分が温存する肺です)

更新:2024.09.23

関連する病気