肺の高血圧、ご存知ですか?

札幌医科大学附属病院

循環器・腎臓・代謝内分泌内科

北海道札幌市中央区

肺高血圧症とは?

高血圧は、全身の動脈圧(血圧)が高い病気であるのに対し、肺高血圧は肺の動脈圧が高い病気です。高血圧は有病者がとても多く「国民病」といえますが、肺高血圧は非常にまれで、国が指定する「難病」です。当科は北海道内でいち早く「肺高血圧症専門外来」を設置し、高度で専門的な治療を提供しています。

肺高血圧症とはどんな病気ですか?

肺高血圧症は、循環器内科のみならず、さまざまな診療科にまたがる病気です。1990年代までは治療薬がほとんどありませんでしたが、2000年代に入ってから新しい薬剤が次々に登場し、治療法は飛躍的に向上しています。

肺高血圧症という病気にかかっても、じつは初期には症状は現れません。肺の3分の2以上が悪くなってはじめて肺の血圧が高くなるといわれています。この頃は「最近疲れやすい」「運動すると何だか苦しい」といった程度ですが、ゆっくりと症状は進行し、さらには「お風呂に入る」「トイレに行く」などの簡単な日常生活の動作でもすぐに息が切れ、むくみなどの症状が現れたり、ついには寝たままの状態で1日を過ごすことが多くなっていきます。

肺高血圧症は「息切れが出やすくなり動けなくなる」ことが進行性に起こってしまう病気といえます(図1)。

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図1 肺高血圧症の一般的な自覚症状

どんな人がかかりやすいですか?

高血圧は遺伝や生活習慣との関連が深いのに対し、肺高血圧はさまざまな病気に合併して発症することが多いです。リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、強皮症(きょうひしょう)といった膠原病(こうげんびょう)と呼ばれる病気は全身に炎症反応を起こしますが、この炎症が肺にもおよぶと肺の血管が細くなり、肺高血圧となることがあります。

薬剤の副作用や、生まれたときからの心臓疾患(先天性心疾患)、肝臓の病気に合併し発症することもあります。間質性肺炎や肺気腫(はいきしゅ)といった肺自体の病気が進むうちに肺の血管が細くなることもあります。また、血管そのものには問題はないのに、血栓という血のかたまりが関与して、肺高血圧をきたすこともあります(慢性血栓塞栓性(まんせいけっせんそくせんせい)肺高血圧症:CTEPH「シーテフ」)。

これらの原因が全くなく「原因が特定できないもの」は特発性と呼ばれ、最新の研究では原因となる遺伝子の関与が明らかになってきました。

治療法を教えてください

治療の基本は、血管を細くするさまざまな原因を取り除くことです。膠原病では、炎症を抑える薬がよく効くことがあります。血栓が詰まっている場合には、血栓を溶かす薬や、カテーテル治療(バルーン肺動脈形成術:BPA「ビーピーエー」)、手術で取り除くことが治療になります。近年、血管を広げる薬剤(肺血管拡張薬といいます)が開発され、良好な治療効果を上げています。原因がはっきりしている場合だけでなく、特発性と呼ばれる方でも、この血管拡張薬がとてもよく効くことがあります。

治療法はさまざまですが、どの治療法にも共通していることが1つあります。それは、良好な治療効果を上げるためには、少しでも早く治療を開始する、ということです。少しでも早く病気を見つけて治療につなげる(早期診断・早期治療)、ということがとても大切です。

おわりに

当科では北海道の肺高血圧診療の草分け的な存在として、十数年前から高度で専門的な治療を開始してきました。CTEPHに対するBPAといった新しい治療法もいち早く取り入れ、治療数も増えています。その結果、札幌市内はもとより、近隣から遠隔地までさまざまな施設から患者さんを紹介していただく機会が増えてきました。しかし、患者さんを取り巻く環境はさまざまであり、医師だけではなく、看護師、理学療法士、薬剤師、ソーシャルワーカーや臨床心理士といった多職種が介するチーム医療を実践し、難病に立ち向かう患者さんの助けとなる診療体制の整備が課題でした。

2018年4月から、道内初の肺高血圧症専門外来を開設し、より専門性の高い医療の提供とチーム医療の実現をめざしています(図2)。私たちチームは、肺高血圧症の治療を行うことはもちろんですが、肺高血圧症という病気とともに生活をしていく患者さんと家族を支援し、一番の味方でありたいと考えています。

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図2 多職種によるチーム医療

更新:2024.09.23