救命救急センターに搬送された自殺未遂患者に対する多職種チームによる自殺予防医療
札幌医科大学附属病院
神経精神科
北海道札幌市中央区

自殺予防の現状とは?
日本は、人口あたりの自殺者数が特に多い国として知られ、大規模災害や感染症パンデミック下で自殺が増加しています。自殺を図った人や自分の体を傷つけた自傷行為者のほとんどが精神疾患にかかり、背景・動機としてさまざまな人生・生活の問題を抱えていたことがわかっています。しかし、自殺企図者や自傷行為者は精神疾患の影響により、助けを求める力も減弱し、医療や支援につながりにくいことが課題です。
自殺はどうして生じるの?
自殺で死亡した人の90%以上が、本人が認識して「いた・いない」にかかわらず、精神疾患にかかっていたことが世界中の膨大な調査・研究によりわかっています。また、その大半は精神科で治療を受けていたわけではありません。精神疾患のために抱えている人生や生活の問題を解決できなかったり、逆に、それらの問題により長く高ストレス状態が続いたことで精神疾患にかかってしまい、自殺につながってしまうことがあります。
どのような人に自殺が生じやすいの?
自殺には、肺がんと喫煙の関係と同じく、自殺に至る危険を促進する「リスク因子」が明らかにされています。代表的なリスク因子は、精神疾患、以前の自殺未遂や自傷行為の既往、生活する地域の経済破綻による影響、がんなどの進行性の疾患などがあります。
病院でどのような治療をするのですか?
私たちは、救命救急センターに搬送された直後から精神科医と精神保健福祉士、あるいは公認心理士等が、患者さん家族など、その方にとって大切な人とコミュニケーションをとり、自殺企図に至ったいきさつの詳しい聴き取りと精神状態の専門的な診立てを行います。

そして、患者さんと患者さんにとって大切な人との間で生活問題と医学的問題を共有し、精神科治療と生活支援に速やかに着手します。入院中から地域における患者さんの支援体制の構築を図り、患者さんが医療を利用しながら自律的に人生を再開できるようにと、退院後も支援を継続していきます。

これは、アサーティヴ・ケース・マネージメント(援助を求める力が減弱した患者さんに、医療者側から積極的に働きかけ、患者さんの個別の事情に合わせてオーダー・メイドで支援を展開)といい、神経精神科主任教授の河西らが開発した、最新の自殺未遂者ケアの方法です。
どのような効果があるのですか?
患者さんの個別的な事情に合わせたこのアサーティヴ・ケース・マネージメントは、自殺未遂者の自殺再企図を抑止する効果が高いことが、大規模臨床試験により科学的に検証されました。そして、この支援プログラムは2018年から保険診療項目として収載されています。実際に、当院でも自殺や自傷行為の抑止に大きな成果を上げています。

更新:2024.09.23