見逃してはいけない原発性アルドステロン症
日本医科大学付属病院
糖尿病・内分泌代謝内科
東京都文京区千駄木

原発性アルドステロン症とは?
原発性アルドステロン症は、副腎(ふくじん)からアルドステロンという体に塩分と水分を溜め込むホルモンが過剰に分泌されることで高血圧をきたす病気です。尿中のカリウム排泄(はいせつ)が増えることで、低カリウム血症をきたすこともあります。高血圧患者さんに行う採血で、アルドステロンとレニンの活性比(※1)が高値となった場合に、この病気が疑われます。通常の高血圧に比べ、治療抵抗性(※2)であり、放置すると心血管系の合併症が増えてしまうため、早期に診断・治療することが重要です。
※1 活性比:特定の物質や反応がどれくらい活動的なのか比べるための数字
※2 治療抵抗性:有効とされる標準的な治療を行っても効果がみられず、症状が改善しないこと
意外と多い原発性アルドステロン症
高血圧の約90%は原因のはっきりしない本態性高血圧ですが、残り10%は原因が明らかな高血圧(二次性高血圧)です。原発性アルドステロン症は、高血圧患者さんの3~12%程度を占め、二次性高血圧の中でも頻度の高いことが知られています。
原発性アルドステロン症は、腎臓(じんぞう)の上にある副腎という臓器からアルドステロンが過剰に分泌されることにより高血圧をきたします。左右の副腎のどちらかに腫瘍(しゅよう)ができる片側性と、両方の副腎が腫(は)れる両側性の2つのパターンに分かれます。片側性の原発性アルドステロン症は、手術により腫瘍を切除することで治癒(薬がいらなくなる状態)が望めます。両側性であっても、アルドステロンの働きを抑える薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)により治療可能です。
早期発見・治療が重要
原発性アルドステロン症は通常の本態性高血圧に比べ、脳・心血管疾患(脳卒中(のうそっちゅう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)、心肥大など)や腎合併症(タンパク尿など)をきたす頻度が高いことが知られています。アルドステロンの過剰が腎臓に作用して、塩分(ナトリウム)と水分を体内に溜(た)め込むことで高血圧をきたすことに加え、アルドステロンが心臓や血管などに直接作用して、炎症や線維化(組織が硬くなること)などの悪影響を及ぼすからです。
原発性アルドステロン症の見落としがないように、基本的には高血圧の患者さんすべてに原発性アルドステロン症かどうかを調べておく検査(ふるい分け:スクリーニング検査といいます)を行います。特に「原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021」では、①低カリウム血症の合併、②治療抵抗性の高血圧(降圧薬(こうあつやく)を3剤以上用いても十分に血圧が下がらない高血圧)、③40歳未満で高血圧を発症、④未治療で150/100mmHg以上の高血圧、⑤副腎腫瘍の合併、⑥若年での脳卒中発症、⑦睡眠時無呼吸症候群の合併例において、積極的にスクリーニング検査を実施することが推奨されています。
原発性アルドステロン症は早期発見・治療により、高血圧症や低カリウム血症の改善が見込まれ、心疾患・腎合併症のリスクを減らすことが可能です。なかなか血圧が下がらない場合や低カリウム血症のある高血圧の方は、一度アルドステロンとレニンの採血をしてみることをお勧めします。
スムーズな連携体制
高血圧のスクリーニング採血で血漿(けっしょう)中のアルドステロンとレニンの活性比が200以上かつアルドステロン濃度が60pg/mL以上の場合に、原発性アルドステロン症が疑われます。その後、腹部CTで副腎腫瘍の有無を確認し、いくつかの負荷試験(薬を投与してホルモンの反応を採血で確認する検査)を行います。
当院では、カプトプリル試験、生理食塩水負荷試験、フロセミド立位試験、迅速ACTH負荷試験を行うことで、原発性アルドステロン症の診断や、片側性と両側性のどちらが疑わしいかの判断をしています。
片側性が疑われ手術希望がある場合は、副腎静脈サンプリングといって、左右の副腎静脈にカテーテル(※3)を挿入してアルドステロン濃度を測定する検査が必要です。腫瘍のある側のアルドステロン濃度が高く、片側性と診断がつけば、手術後には降圧薬の中止も期待できます。ただし高血圧にさらされていた期間が長いと、手術後にも降圧薬が必要となることがあります。
当院では、原発性アルドステロン症の診断から治療に至るまで、各分野における専門チームが互いに密接な連携をとることで、高水準の診療を一括して受けられる体制が整っています(図)。
※3 カテーテル:医療用の細い管

糖尿病・内分泌代謝内科
高血圧のスクリーニング採血で、原発性アルドステロン症が疑われた方の多くが、当科を紹介受診しています。ホルモンの機能を確認するための負荷試験も、多くの病院では入院が必要ですが、当科では外来での実施も可能です。
当科は原発性アルドステロン症をはじめ、数多くの内分泌疾患を診療する内分泌学会認定教育施設です。内分泌学会認定内分泌代謝内科専門医をはじめ、経験豊富な医師が多数在籍し、診断・治療が難しい場合も、カンファレンス(検討会)などを通じて患者さん一人ひとりの病態に合った選択ができるように、丁寧な診療を心がけています。
診療実績
2019年4月から2023年6月までの期間に、約600人の原発性アルドステロン症患者さんが当科の外来に通院しています。また同期間で負荷試験を目的に124人、副腎静脈サンプリングを目的に42人と、多くの患者さんが入院しており、国内でも多数の診療実績があります。
放射線科では年間約800件のカテーテル診療を行っており、高精度の副腎静脈サンプリングが実施可能です。また泌尿器科では前立腺がんを含め700件以上の腹腔鏡下手術の実績があり、現在はその多くがダビンチによるロボット支援下手術に移行しています。
当院では、原発性アルドステロン症の診断から治療に至るまで、質の高い診療を一貫して受けられます。
更新:2025.12.12
