当院の無痛分娩システム構築 —— 安全で快適な分娩をめざして——

日本医科大学付属病院

女性診療科・産科

東京都文京区千駄木

当院の無痛分娩システム構築 —— 安全で快適な分娩をめざして——

当院の無痛分娩体制

無痛分娩(むつうぶんべん)とは、麻酔を用いて、出産の痛みを和らげながら分娩を行う方法のことをいいます。当院では、2024年4月1日より無痛分娩を導入し、大学病院の強みを生かして、より安全なバックアップ体制を構築しました。当院での無痛分娩は、産科医・麻酔科医・助産師が緊密な連携を取りながら、より安全で快適な分娩をめざしています。

当院の無痛分娩導入について

日本医科大学では共通のプロトコール(実施計画書)を作成し、2021年秋に最も分娩数が多い、日本医科大学武蔵小杉病院で無痛分娩を導入しました。ほかの付属3病院の無痛分娩プロトコールの原本は同一であり、高い安全性のもと運用されています。

最もハイリスク分娩の多い大学病院である当院の関係部署と議論を重ね、本プロトコールにさらなる追加と修正を繰り返しました。そして、本導入までに約6か月の試験導入を行い、順調に運用実績を積んでいます。

手術室での麻酔は、手術侵襲(しんしゅう)(手術による体の負担)に対して、圧倒的な鎮痛を提供することが求められます。しかし、無痛分娩では母児のリスクや分娩への影響を最小限にしたいので、比較的弱い鎮痛で乗り切ろうとします。では、無痛分娩の「成功」の定義づけとはどういうものでしょうか?

無痛分娩は痛くない分娩経過をたどり、かつ安全に分娩を終えることであると考えます。除痛の質を担保しつつ、安全性をも担保しなくてはいけません。そのために、特に産科医・麻酔科医・助産師の3部門の専門職が協力しあい、これらの共通の目的に向かって、無痛分娩を行う妊婦さんをサポートする体制を作りました。

当院の無痛分娩の実際

当院では、無痛分娩を受ける妊婦さんに産科医1、2人、麻酔科医1、2人、助産師2人が担当となり、1つのチームで診療を行います。万が一、無痛分娩の合併症が起こったとしても迅速な対応を可能とし、そのバックアップ体制を築いています。緊急時も迅速に対応できるよう、専門医のバックアップやより高度な医療を行える施設を完備している点で、当院での無痛分娩は安心感があると思います。

当院では、原則的に経産婦の計画分娩による無痛分娩を行っています。計画分娩とは、あらかじめ分娩する日を決め、陣痛が始まる前に入院し、計画的に陣痛を起こして出産することです。なお、入院予定日前の陣痛発来や夜間休日の無痛分娩は行っていません。入院1日目に子宮口が開いていなければ子宮頸管(けいかん)を拡張し、2日目より無痛分娩を行うことになります。

無痛分娩を希望する妊婦さんは、妊娠12週以降に予約を開始します。妊娠20~34週の間に無痛分娩クラスの受講をお願いしています。また、妊娠34~36週に麻酔科外来を受診してもらい、無痛分娩の適応に問題がないか確認します。

また、無痛分娩にかかわるスタッフの役割について説明します。無痛分娩の成功のためには、産科医だけでなく麻酔科医や助産師がそれぞれの役割を認識し、同じ目標(無痛分娩の成功)に向けて良好なコミュニケーションをとりながら管理することが重要です。

●産科医の役割

無痛分娩は麻酔の影響を受けた分娩で、カテーテル(※1)を用いた硬膜外(こうまくがい)麻酔がよく使用されます(図)。一般的な自然分娩よりも難易度が上がるので、当院ではベテランの産科医が担当医となります。突発痛などの麻酔導入後の管理を請け負うことも非常に重要な役割であり、カテーテルがうまく機能しているか、入れ替えは必要ないかなどの判断を行い、迅速に麻酔科医と連携をとっています。そして、副作用発現時は緊急対応で前線に立ち、麻酔科医や助産師とのコミュニケーションをスムーズに行います。さらに、無痛分娩終了後は麻酔科医と同様に神経障害発現に配慮し、妊婦さんのフォローを行います。

図
図 硬膜外カテーテルを用いた無痛分娩

●麻酔科医の役割

麻酔科医の役割は、硬膜外カテーテルがうまく機能するよう留置することが最も重要といえます。カテーテルが分娩中に容易にずれると、副作用発現のリスクにつながったり、除痛効果の減少が起こったりする可能性があります。麻酔科医は、産科医や助産師からのコール対応や副作用発現時に迅速に対応し、産科医では対応できないトラブルシューティング、特に除痛や副作用発現にも対応します。また、カテーテルの入れ替えの最終判断を行います。無痛分娩終了後は神経障害に注意しながらフォローします。緊急帝王切開時の麻酔も担当します。

●助産師の役割

助産師は分娩において最前線に立ち、妊婦さんのそばに寄り添って妊娠・分娩・産褥(さんじょく)経過を観察し管理を行うプロフェッショナルです。妊婦さんのバースプランを適切に策定し、どのような無痛分娩を望むのかを妊婦さんと確認し、麻酔導入のタイミングを医師とも話し合うことが重要です。また硬膜外穿刺(せんし)という針を刺す手技は、背後からの処置になるため、妊婦さんにとって恐怖がある手技といえます。安心感を与えるような声かけが重要といえるでしょう。内診による分娩進行状況や痛みの評価を行い、より満足度の高い分娩管理のために非常に大事な役割を担っています。

※1 カテーテル:医療用の細い管

当院での無痛分娩の費用

当院では、無痛分娩は通常の分娩費用に加えて一律15万円が追加されます。麻酔を延長した場合の延長料金はかかりません。また、無痛分娩中に帝王切開を選択した場合は、帝王切開の費用はかかるものの、麻酔管理料など手技料金は保険診療の対象となります。

当科の特色 女性診療科・産科

当当科は、大学病院の診療科であるため、伝統的・専門的な不妊症・不育症治療、そしてより安全な妊娠・出産・産後の支援まで一貫して対応できる高度な施設として実績を上げています。また、大学病院として合併症などを持ったハイリスクな妊産婦の受け入れはもちろん、低リスクの妊産婦の分娩サポートも行っています。

当院の妊娠・出産のサポートの特色として以下が挙げられます。

  • 多職種連携による合併症妊娠やハイリスク妊産婦の管理
  • 生殖専門外来・不育症外来からの密な支援
  • 専門的な超音波技術と遺伝診療科との連携による出生前検査が可能
  • 麻酔科と密な連携をとった安全性の高い無痛分娩(現在は経産婦に限っています)
  • 万が一の超緊急帝王切開も麻酔科・手術室との連携により10分以内で開始可能
  • 妊娠合併症の産後ケアと専門科との適切な連携
  • セミオープンネットワークを開設し、通院負担の軽減と緊急時の対応が可能

診療実績(2023年)

  • 総分娩件数:401件
  • 帝王切開件数:174件
  • 無痛分娩件数:3件

更新:2025.12.12