症状を伴わない血尿は膀胱がんのはじまり?
日本医科大学付属病院
泌尿器科
東京都文京区千駄木

膀胱がんとは?
膀胱(ぼうこう)がんは女性よりも男性に多く、また高齢者に多い病気です。再発率も高く、膀胱がんの患者さんは年々増えています。主な原因は喫煙で、最も大きなリスクとなります。たばこを吸わない人では、コーヒーやカフェインがリスクになります。
初期は症状を伴わない血尿で見つかることが多いですが、進行がんになると排尿時痛や頻尿(ひんにょう)を伴います。ステージ1までは内視鏡の治療が中心となりますが、ステージ2以上になると、膀胱をすべて取る全摘手術が必要となり、術後には、尿路ストーマ(※1)が必要となることが多いです。
※1 ストーマ:腸や尿路の手術によって、腹部に便や尿の排泄口を造る人工肛門や人工膀胱のこと
検査・診断
尿中の細胞を顕微鏡で診断する尿細胞診や、膀胱の中を直接観察する膀胱鏡などが、膀胱がんに特徴的な検査となります。そのほか、CT・MRIによる画像診断は、ほかのがんと同様です。陽電子放射断層撮影という、がんを検査する方法の1つであるPET(ペット)においては、PETの薬剤が尿中に排泄(はいせつ)され、尿路全体が光るため、尿中のがんは隠れてしまいますが、尿路外の腫瘍(しゅよう)(リンパ節や遠隔転移)を疑う際には重要となります。
まずは診断的に、内視鏡切除を行います。全身麻酔で尿道から内視鏡を入れて膀胱内の腫瘍を削る、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR BT)という手術です。腫瘍を切除し、さらに深く切除し、腫瘍の根の深さを診断します。
筋層非浸潤がん・筋層浸潤がんの治療について
●筋層非浸潤がん
転移のない膀胱がんの治療では、膀胱を残すかどうかが、最も大きなポイントとなります。腫瘍の根が浅く、筋層に浸潤し(しんじゅん)(※2)ていないがん(筋層非浸潤がん、図1)では、膀胱を残すことができます。膀胱を残すと判断した場合、①すべてを削り切るためにもう一度内視鏡手術を行う、②再発予防のために膀胱内に薬(抗がん剤やBCG)を注入する、など、追加治療を行います。

●筋層浸潤がん
一方、腫瘍の根が深いがん(筋層浸潤がん)の場合は、膀胱全体を摘出する計画を立てていきます。膀胱を摘出する前に腫瘍を小さくする目的や、摘出後の再発予防を目的に、全身化学療法を手術の前後どちらか、もしくは両方に行います。膀胱を摘出したのちに、尿の新しい通り道として、尿路ストーマが必要となることがあります(図2)。筋層浸潤がんと診断された方で、どうしても膀胱を残したい方のために、膀胱温存療法を行っています(「当科の特色」参照)。

※2 浸潤:がんが周りに広がっていくこと
転移のある膀胱がん(尿路上皮がん)の治療について
転移のある膀胱がんの場合、がん細胞は血管を通じて全身に広がっています。そのため、がんに有効な薬を血流にのせて体の全体に送る「全身化学療法」が治療の中心となります。
膀胱がんを含めた尿路上皮がんは、免疫チェックポイント阻害薬が治療適応となっている病気です。現在のところ、膀胱全摘後の再発予防・転移のある尿路上皮がんでは、免疫チェックポイント阻害薬が使用できます。
当科は、免疫チェックポイント阻害薬の使用経験が豊富です。また病院全体で免疫チェックポイント阻害薬の副作用に対応するシステムも充実しており、有効かつ安全・積極的に使用していく方針です。
当科の特色 泌尿器科
当科では1980年代から、筋層浸潤膀胱がんに対する膀胱温存を追求し、研究をしてきました。現在ではpT2(筋層に腫瘍が広がっているもの)の一部(腫瘍の大きさ、位置等による)の患者さんに、通常の経尿道的手術よりも深い切除を行う経尿道的手術(Deep TUR)や全身化学療法を行っています。また、膀胱部分切除と骨盤内リンパ節切除を行うことで、膀胱を残す膀胱温存療法も実施しています。
膀胱温存療法というと、①経尿道的切除、②全身化学療法、③放射線照射の3つを組み合わせて行うことが一般的です。一方当科では、膀胱に放射線を照射したあと、膀胱に起こる膀胱萎縮による排尿機能障害を考慮し、放射線を照射せず、膀胱部分切除および骨盤内リンパ節郭清(※3)を施行する独自の方法で行っています。しかし、すべての患者さんに適応できるわけではないので、自身が適応となるかどうかについては、外来担当医にご相談ください(図3)。

※3 リンパ節郭清:手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること
診療実績
当科では、膀胱がんの基本手術となる経尿道的膀胱腫瘍切除術を年間180件程度行っており、その実績は都内でも上位(2021年東京都内:第8位)に当たります。
筋層浸潤がんに対する手術療法を5年間で70件、そのうち膀胱温存症例は30件ありました。
膀胱温存症例の成績は、2017~2022年で膀胱温存療法を30件行い、5年膀胱温存率は83%でした。また、5年筋層浸潤がん非再発生存率(MRFS)は67%でした。そのうちすべての治療を達成できた群の5年MRFSは100%であり、治療が未達成だった群の5年MRFSは62.7%でした。
膀胱温存療法は、TUR2回→化学療法3回→再評価TUR→膀胱部分切除と治療期間が長くなり、すべて達成できない方が出てしまうのが問題となります(図3)。
更新:2025.12.12
