治癒率とQOL の向上をめざした乳がん治療
日本医科大学付属病院
乳腺科
東京都文京区千駄木

乳がんについて
乳がんは女性が罹(かか)る最も多いがんで、30歳代から増え始め、60歳代までの間にピークがあります。胸のボリュームや年齢にかかわらず乳がんに罹りうるので、定期的な乳がん検診やセルフチェック(ブレストアウェアネス)は早期発見・早期治療につながり、とても大切です。
乳がんは、治療薬・治療法の急速な進歩により、多くの場合、治癒を望めるようになりました。たとえ再発しても、適切な治療により長期生存が期待できます。ガイドラインに則った標準治療が最も治療効果が高く、できるだけ完遂することが再発予防のために重要です。
一人ひとりに合わせた乳がんの個別化治療
当科では、乳がん治療に対して、主治医が患者さんと話し合い、背景や思いをくみながら、治癒率と生活の質(QOL)を高められるよう、適切な治療法を選択します。心臓病、糖尿病、肺疾患、脳血管疾患など、さまざまな合併症を持つ患者さんに対してはもちろん、近年次々と承認される新薬の有害事象への備えに対しても、高い技術を持つ各診療科の専門医と連携して、乳がん治療が行える体制を整えています
医師のみならず薬剤師により、乳がんの治療薬の副作用やその対策などの情報を提供し、できる限り不安を取り除けるように心がけています。また療養や生活上の不安が強い方や、術後リンパ浮腫(ふしゅ)で悩まれている方には、乳がん看護認定看護師(日本看護協会認定)が親身に対応・指導します。このように、がん治療の経験が豊富な多くの職種と緊密に連携し、チーム医療を行っています。
妊娠・出産や育児、仕事、介護などさまざまなライフイベントと重なってしまうため、患者さんにとって治療を乗り越えていくことは容易なことではありません。私たちは、患者さん一人ひとりがベストな治療を受けられるように、さまざまな観点からサポートしていきます。
頭皮冷却装置を用いた化学療法中の脱毛抑制
化学療法に伴う脱毛は、患者さんの心理的ダメージが強く、化学療法拒否の大きな原因の1つとなっています。一般的に、化学療法終了後約6か月で再発毛してくることが多いですが、なかには化学療法終了後も、再発毛が進んでこないことがあります。また化学療法によりいったん脱毛し、その後再発毛しても髪の毛のクセが強くなるなど、髪質が変わることが多いとされます。
当科では専用の頭皮冷却装置を導入し、患者さんが脱毛を我慢する期間ができるだけ短期間となるように、また治療終了後も脱毛で悩むことがないように、サポートする体制を整えています(写真、図1)。

ヘッドキャップは、別途購入していただきます。S・M・Lの3サイズあります。
(画像提供:センチュリーメディカル株式会社)

形成外科との密な連携による乳房同時再建
乳がんが乳房内に多発している場合や、がんの広がりが広い場合は、通常、乳房温存手術を行うことはできません。その場合は、乳房を全摘出する必要がありますが、整容性をあきらめなければいけないわけではありません。
当科では、形成外科の乳房再建チームと密に連携しており、乳がん手術と同時に乳房再建も行っています。乳頭乳輪温存/皮膚温存乳房切除と同時に行う乳房再建手術は、乳房の喪失感をあまり感じることなく、病変の完全切除が望めます。
当院では4か所からの自家組織再建(腹部、背部、臀(でん)部〈お尻〉、大腿(だいたい)部〈太もも〉)と人工物再建(エキスパンダーとインプラント)の保険診療を主に行っていますが、患者さんに合わせて脂肪注入やタトゥーを含めた保険外治療もご案内しています(図2、図3)。


当科の特色 乳腺科
乳がんはほかのがんと比べて、その性質や治療法が多様です。乳がんはエストロゲン(女性ホルモン)の受け皿を持っているなどで、少なくとも5つのタイプに分類され、そのタイプに応じて適切な治療法を選びます。
手術は乳房温存術、乳房全切除術、乳房再建術など、患者さんの希望が重要です。遺伝性乳がんの場合、予防的乳房切除という手術を考える必要もあります。また、妊娠希望がある方や妊娠中に乳がんが見つかる方もおり、女性診療科と連携して、将来の妊娠や胎児、母体の安全を考慮した乳がんの治療を行います。さらに、心臓病、糖尿病などほかの疾患を患っている方は、それぞれの診療科と連携して治療を行います。
乳がんの治療は、患者さん一人ひとりで異なりますので、多職種間での連携を図り、最適なケアをしていきたいと考えています。
診療実績
当院では年間300件の乳がん手術を実施しています。
また形成外科の乳房再建チームと密に連携しているため、乳房同時再建の実績も豊富で、患者さんのニーズに合わせた治療方法を提案し、実施しています(図4)。
化学療法中の頭皮冷却併用による脱毛抑制にも積極的に取り組んでおり、都内外の病院での手術後、当院での化学療法を希望して紹介される患者さんも多くいます。

更新:2025.12.12
