緑内障に対する理想的な眼圧下降治療
眼科

緑内障とは?
緑内障は、長らくわが国の中途失明原因第1位の目の病気です。国内の調査の結果では、40歳以上の5%(実に20人に1人)が緑内障患者であり、さらに加齢とともに増加する全くまれではない疾患といえます。
緑内障は視野障害が徐々に悪化する進行性の病気ですが、現在の緑内障治療において、残念ながら一度失われてしまった視野の回復は困難です。眼圧(眼球の硬さ)を下げることによって、視野障害の進行を抑制することが、科学的な根拠に基づいた唯一の治療法とされています。
緑内障のしくみ
目の中には房水(ぼうすい)といって、目を栄養する水が流れています。緑内障ではさまざまな理由で、目の中に房水が溜(た)まり、目の中の圧力(眼圧)が上がります。それにより眼球の後ろにある視神経乳頭部が圧迫され、視神経が傷んでしまいます(図1)。結果として、緑内障では、見える範囲(視野)が狭くなっていきます。

緑内障の初期では自覚症状が乏しいことが多いですが、末期には高度の視野障害となります(図2)。視神経がすべて傷んでしまうと、失明する場合もあるため、緑内障と診断された時点から、適切に治療をしていくことが大切です。

眼圧下降治療の手順
緑内障治療では、患者さんごとに目標とすべき眼圧レベル(目標眼圧)を設定して眼圧下降治療を行います。十分な眼圧下降治療を施せば、8割程度の患者さんの視野進行を抑制できますが、2割程度の患者さんは治療をしても視野障害が進行してしまうともいえます。
視野障害が進行する患者さんのなかには、外来診療時間内の眼圧は低いけれど、実は夜間や早朝などの外来診療時間外に眼圧が高い方もいます。近年このような眼圧変動も緑内障進行のリスク因子の1つとして注目されています。
まずは外来眼圧レベルの十分な下降が重要ですが、特に外来眼圧が低くても進行する患者さんに対しては、眼圧変動も小さくする「より質の高い眼圧下降治療」を行うことで、緑内障の進行をさらに抑制できる可能性があります(図3)。

当院での眼圧変動測定
眼圧は、日内変動(例えば、日中は低いが夜間は高い)、日々変動(日によって高い日と低い日がある)、長期変動(長い年月で低い時期と高い時期がある)、季節変動(例えば、夏は低いが冬は高い)、体位変動(例えば、座った姿勢では低いが仰向けに寝ると高い)などさまざまに変動します。そのため、外来診療ごとの繰り返しの眼圧測定が重要です。
特に、通常の外来診療時間外を含んだ眼圧レベルの把握には、24時間の眼圧日内変動測定が必要で、従来は入院して数時間ごとの測定が必要でした。しかし、近年、自宅で眼圧自己測定が可能な手持ち眼圧計(写真)が発売されたため、当院では、必要に応じて患者さんに貸し出しています。

質の高い眼圧下降治療の理想と現実
緑内障治療の基本は、点眼薬による薬物治療です。しかし、緑内障点眼薬の眼圧下降効果には、薬剤の種類により特有の日内変動があります。特に、日中に比べ夜間の眼圧下降効果が小さくなる薬剤が多く、これらの薬剤を複数併用すればするほど、治療後の眼圧は、日中より夜間のほうが高くなりやすくなります。このように眼圧変動が大きい患者さんに対しては、日中と夜間の眼圧下降効果に差が少ない薬剤を積極的に活用するようにします。
また、レーザー線維柱帯(せんいちゅうたい)形成術(レーザーで眼内の水の流出率を改善させる治療法)の眼圧下降効果は、日中は比較的小さくても、夜間の眼圧下降および眼圧変動抑制に有効であることが報告されています。そのため、夜間の眼圧上昇がある患者さんに対しては、レーザー治療を並行して実施することも検討します。さらに強力に24時間眼圧を下降させる必要があるときは、観血的手術(メスを使う手術)を行う場合があります(図4)。

低くて変動の少ない眼圧を生涯にわたって維持することが治療の理想ですが、実際は良好な治療効果を長期間維持することは容易ではありません。また、薬物治療、レーザー治療、手術治療にかかわらず、それぞれの治療にはメリットとデメリットがあります。患者さんによって、緑内障の進行速度や治療に対するニーズも異なります。そのため、生涯にわたり生活に困らないレベルの視機能を維持するために、患者さんごとによく相談して、適宜治療方針を決めていくことが重要と考えています(表)。

更新:2025.12.12
