頭頸部がんの治療

日本医科大学付属病院

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

東京都文京区千駄木

頭頸部がんの治療

頭頸部がんとは?

頭頸部(とうけいぶ)がんは、頭頸部(鎖骨より頭側にあり脳より足側にある部分、図1)に生じるがんで、がん全体の約5%の頻度になります。頭頸部には鼻副鼻腔(びふくびくう)、口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、唾液腺(だえきせん)、甲状腺(こうじょうせん)などさまざまな臓器が含まれ、呼吸や食事など生きていくために必要な働き、嗅覚、視覚、聴覚、味覚、発声、構音(発音)、表情など社会生活の質にかかわる大切な働きを担っています。このため頭頸部がんの治療は、これら重要な働きをなるべく残したうえで治癒をめざす必要があり、時に悩みどころとなります。

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図1 頭頸部の領域

一般的な頭頸部がん治療への取り組み

頭頸部がんに限らず、がんの治療は手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤)が3本柱になります。手術療法については後述の通り、患者さんの状態に応じて適切な選択肢を提示できる体制を整えています。

放射線療法については、正常な唾液腺や脊髄(せきずい)に対する照射線量を最小限にして、治療後の唾液腺障害(口の渇き)や脊髄障害(筋力低下、感覚低下)を予防し、がんの病巣には十分照射するようIMRT(強度変調放射線療法)と呼ばれる精密な方法で治療を行っています。

化学療法についても保険適用のあるレジメン(治療メニュー)にはすべて対応しています。

また、標準治療終了後、あるいはもともと標準治療の確立されていないがんに対しては、遺伝子パネル検査(※1)を行うことが可能です。新たな治療につながる確率は5~10%程度ですが、結果によっては治験(※2)に参加できることがあります。なお、光免疫治療(アルミノックス治療)については現在対応していません。

※1 遺伝子パネル検査:治療に役立つ情報を得るために、一度に複数の遺伝子を調べる検査
※2 治験:新薬における薬の効果と安全性を調べる臨床試験

患者さんの体に負担の少ない機能温存手術への取り組み

頭頸部がんの手術療法については、内視鏡を用いた低侵襲(ていしんしゅう)(体に負担の少ない)手術から欠損部の再建(体のほかの部位から皮膚や筋肉、骨を移植する)を伴う拡大手術まで幅広く対応しています。

当院の特徴として、耳下腺(じかせん)がん(唾液腺がんの一種)で顔の皮膚切除が必要な場合、近くの皮膚を移動する皮膚再建(bilobed flap)を行っています。これは患者さんの体に負担が少なく、再建部が目立ちにくい方法です(図2)。

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図2 皮膚再建

さらに顔面神経(顔の表情を作る筋肉を動かす神経)や骨切除(下顎骨(かがくこつ)や側頭骨)を伴う耳下腺がんに対しては、形成外科で顔面神経再建を含めた前外側大腿皮弁(ぜんがいそくだいたいひべん)による再建術(図3)を行っています。また、術野(手術を行う、目で見える部分)を複数医師で共有しながら3次元画像で拡大視できる外視鏡を用いた手術など、患者さんの体に負担の少ない手術を行っています。

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図3 前外側大腿皮弁による再建術
耳下腺がんを切除後、太ももの皮膚と筋肉、神経を血管とともに採取。耳下腺がんを切除した欠損部に移植し、顔面神経の切除部分に採取した神経をつなげます

ロボット支援下の咽喉頭手術については現在導入の準備を進めていますが、下咽頭早期がんは消化器内科と合同で、中咽頭早期がんは当科で、内視鏡を用いて口からがんを切除する内視鏡下経口的手術により、ロボット支援下手術と同等な低侵襲手術を行っています。

高リスクな患者さんや定型的な手術以外の手術

頭頸部がん患者さんは高齢者も多く、また糖尿病、腎臓病(じんぞうびょう)、肝臓病(かんぞうびょう)、心臓病、ほかのがんなどさまざまな持病を持っている方もいます。これらの持病がある患者さんの場合、全身麻酔による合併症のリスクや創(きず)の治りが悪くなる、ほかのがんや病気に対する手術の影響で手術法の選択肢の制限を受ける、など手術の危険性があり、難易度も高くなります。当院では内科、麻酔科と緊密に連携し、持病のある患者さんの手術も積極的に行っています。

また、形成外科、消化器外科、脳神経外科との連携により、定型的な手術(件数が多く手順が決まっている手術)以外の手術にも取り組んでいます。例えば、後頭部に発生した未分化多形肉腫(みぶんかたけいにくしゅ)(筋肉や神経から発生したがんの一種)に対する後頭蓋底(こうずがいてい)手術(開頭して病巣を頭蓋骨とともに取り除く手術)、後頸部に発生し後頸部リンパ節転移を伴う悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)に対する後頸部郭清術(かくせいじゅつ)(通常頭頸部がんは側頸部に転移するため、頸部リンパ節転移を取り除くのは側頸部郭清術と呼ばれています)など、手術書にもあまり掲載されていないような手術にも対応しています。

診療実績(2022年)

●悪性疾患

  • 頭頸部再建手術(微小血管吻合を伴う遊離皮弁)24件
  • 頸部郭清術57件
  • 口腔悪性腫瘍手術12件
  • 咽頭悪性腫瘍手術23件
  • 喉頭悪性腫瘍手術7件
  • 唾液腺悪性腫瘍手術3件
  • 鼻副鼻腔悪性腫瘍手術1件

●良性疾患

  • 耳下腺部分切除術33件
  • 顎下腺摘出術9件
  • 頸嚢摘出術9件

更新:2025.12.12