発達外来が担う医療

大阪母子医療センター

発達外来推進室 育・療支援部門

大阪府和泉市室堂町

新生児医療の現在

当センターには現在、新生児から学童までたくさんの子どもが入院、あるいは通院しています。周産期の病院としてスタートしたこともあり、それ以来、地域の医療機関とも密接な連携をとりながら、早産や低出生体重児、あるいは合併症を持った、いわゆる「ハイリスク新生児(しんせいじ)」という赤ちゃんに対応しています。

現在、当センターで生まれる赤ちゃんは年間約1600人で、これまで大きな変動はありません。このうちハイリスク新生児は、当センター以外からの受け入れも含めて年間約250人が新生児集中治療室(NICU)に入院しています。そのうち出生体重が1000g未満の超低出生体重児といわれる赤ちゃんは、約50人います(国内で、超低出生体重児は1年に3000人近く生まれています)。

開院当初は、このような超低出生体重児といわれる小さな赤ちゃんの命を助けることが難しい時代でもありました。例えば、1980年の全国集計では、超低出生体重児の赤ちゃんは10人に6人の割合(60%)で亡くなっていました。そのため、新生児科医は、入院中の脳室内出血や感染症などの大きな合併症を起こさずに小さな赤ちゃんの命を助けることに一生懸命になっていました。その後、新生児医療そのものや新しい医療機器の発展、新しい薬の登場によって、超低出生体重児はどんどん助かるようになってきました。2010年には、超低出生体重児の死亡率は10%を下回るようになっています。

新生児の医療は、小さく早く生まれた赤ちゃんの命を助ける医療から、大きな合併症がなく退院できるように、医療の質も進化を遂げてきています。そして現在では、退院した後の赤ちゃんの発達について、ますます目が向けられるようになってきています。

赤ちゃんの発達と成長をフォローアップ

赤ちゃんに限らず、子どもはみんな成長し発達しています。その成長と発達は、退院後も家族とともに家庭や学校などでも育まれていきます。それぞれの子どもたちの成長や発達は全く同じではありません。特に、早産・低出生体重児で生まれた赤ちゃんは、成長と発達において「ハイリスク」です。赤ちゃん自身に脳性麻痺(まひ)や精神運動発達の遅れなど、神経学的合併症が出てくる可能性も高いので、もしそうであれば、早くみつけて対処していくことがとても重要になります。神経学的合併症のない子どもであっても、身体発育や精神運動発達は、正期産児とは異なることがあります。また、大きな発達の遅れなどを認めず順調に経過している子どもでも、小学校に入学してから、学習障害や行動の問題が明らかになってくることもあります。

そのためには長期間にわたるフォローアップが必要になります。

当センターでは、NICUを退院した赤ちゃんが就学するまで、複数科の医師および心理士・保健師などの専門スタッフによる継続的な診察を、「発達外来(はったつがいらい)」と称して行ってきました。

成長や発達に問題を抱える赤ちゃんは、早産、超低出生体重児だけではありません。当センターには、小児外科疾患や循環器疾患のために生まれてすぐに大きな外科の手術を受けた赤ちゃん、低体温療法などの特殊な治療を受けた赤ちゃん、また、お母さんのお腹(なか)の中で過ごしている時期に治療(胎児治療)を受けて生まれてきた赤ちゃんなどがいろいろな診療科にかかっています。このような子どもたちも同じように、長期的にフォローアップする必要があります。

そこで現在は、「表」に示したように1000g未満の超低出生体重児、1000〜1500gの極低出生体重児、胎児治療、外科疾患、循環器疾患など、フォローアップする子どもに応じたスケジュールを組み、発達外来にて診察を行っています。そこでは、臨床心理士による心理発達検査や、院内の保健師も一緒に加わって、家族の相談を受けながら保健指導も行っています。また、発達外来診察の後、それぞれの子どもの成長や発達の状況を関連のスタッフで共有し、より良い医療が提供できるように、本人や家庭にフィードバックをしています。

表
表 発達外来スケジュール

発達外来での診療を次の治療につなげる

さて、現在少子高齢化が社会的に大きな問題となっています。2014年の出生数は98万1000人と、初めて100万人を下回りました。大阪府でも、1972(昭和47)年のピーク時の出生数は17万6094人(出生率22・6%)でしたが、2015年の出生数は7万596人(出生率8・1%)まで低下してきています。その内訳をよくみてみると、出生体重2500g未満の低出生体重児といわれる赤ちゃんは、1999年には7552人(出生数の8・5%)でしたが2015年には6551人(出生数の9・3%)となり、近年その傾向は落ち着いているようではありますが、出生の数は減っているもののむしろその割合は増加しています。ここ数年来の話題として、胎児期に低栄養の環境で育った場合、成人期になってからの慢性疾患の発症に影響を与える、いわゆる成人病胎児起源説(DOHaD/Developmental Origins of Health and Disease)があります。低出生体重児や在胎期間の標準体重よりもかなり小さく出生した赤ちゃんは、内分泌や栄養という側面からも、成長をフォローすることが必要となってきています。

それぞれの子どもに対して神経学的・精神運動発達的側面から、そして栄養的側面からもフォローし、地域とかかわりの深い保健師とともに長期的な視野に立って助言をすることが必要です。各専門診療科の医師やスタッフと連携しつつ、総合的に成長・発達をサポートすることが必要です。そのほかに、発達外来推進室では、発達外来でのさまざまな子どもの診療を今後のフォローアップに生かせるように、それらの情報を蓄積し、縦断的な発達の特徴についても考えながら、これからの患者さんに役立てるような情報を発信していこうと取り組んでいます。

更新:2024.10.29