原発性肺がんの外科治療とは?
日本医科大学付属病院
呼吸器外科
東京都文京区千駄木

原発性肺がんとは?
原発性肺がんは、肺や気管支から発生するがんで、わが国のがん死亡者数で最多の疾患です。肺がんの原因は、喫煙が一番のリスク因子ですが、最近ではたばこを吸わなくても肺がんになることがあります。症状は、早期だと無症状が多いですが、進行すると咳(せき)や血痰(けったん)などの症状が出ます。原発性肺がんは、早期発見、早期治療を行うことで根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)することができます。特に、胸部X線ではわからないような小型肺がんは、外科切除術を行うことで、85~90%以上の5年生存率を得ることができます。
肺がんの標準的な外科治療
肺がんに対する標準治療は、病状の進行具合により異なります。すなわち、臨床病期といわれるステージごとに決まっています。腫瘍(しゅよう)径が30mm以下でリンパ節転移や遠隔臓器への転移を認めないA期に対しては外科手術、腫瘍径が30mmを超えたり、リンパ節転移を認めたりする場合(B期からA期まで)は、外科切除後に化学療法を行います。
肺がんの標準的な外科手術は、「肺葉切除術+リンパ節郭清(せつかくせい)術(※1)」です(図)。右肺は上葉、中葉、下葉、左肺は上葉、下葉に分かれています。そのため、肺がんに対する根治術を行うと、肺機能を損ねる可能性があります。最近では、小型肺がんに対しては、肺葉切除ではなく、肺機能温存を目的に、区域切除や部分切除術などが行われます。手術方法は、胸腔鏡(きょうくうきょう)というカメラを胸腔内に挿入して行います。術野(手術を行う、目で見える部分)にいる複数の外科医がモニターを見て、安全を確認しながら手術を行います(写真1)。

右の上葉にがんがあった場合、右の上の肺とリンパ節を取り除きます

肺がんに対する胸腔鏡手術の安全性の追求のために、肺がん画像をシミュレーションし、血管走行をナビゲーションしながら手術を行っています。最新のシミュレーションソフト開発を企業と共同研究することで、安全性が高く、手術時間を短縮した低侵襲(ていしんしゅう)性(※2)手術の遂行に取り組んでいます。
また、クリニカルパス(※3)を用いて術後の管理方式を徹底させ、周術期(※4)の安全性を高めています。
※1 リンパ節郭清:手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること
※2 低侵襲:体に負担の少ない
※3 クリニカルパス:診療内容をスケジュール化し、わかりやすく記したもの
※4 周術期:入院、麻酔、手術、回復といった、術中だけでなく前後の期間を含めた一連の期間
気管支鏡による肺がん治療
外科切除(手術)でもなく、放射線治療でもない別の治療法として、肺の気管支に直接、気管支鏡(プローブ)を挿入し、医薬品である光感受性物質と、肺の気管支に挿入したプローブから放たれるレーザー光との組み合わせで行うがん治療「PDT」があります。これは、肺を切らずに肺機能を温存しながら治療ができる方法で、以前より低コスト・低侵襲な肺がん治療として実施されてきました。「切らずに治す。肺機能を温存。疼痛(とうつう)(痛み)がない」という超低侵襲な肺がん治療です(写真2)。

気管支鏡を用いて、PDT 治療を行っています
また、気道狭窄(きょうさく)(気道が細くなること)をきたすような進行がんに対して、硬性気管支鏡という筒を気道内に挿入し、気道開大術を行っています。ほかの病院では行うことができないようなステント(※5)挿入やレーザー焼灼術(しょうしゃくじゅつ)なども行い、気道を広げる手術も実施しています。他施設からの紹介も多く、関東一円の最後の砦として治療を担っています。
※5 ステント:気管・気管支を内側から広げるための筒
肺がんの診療体制
「進行性肺がん」の征圧のためには、手術だけで根治することは不可能です。手術前後で、何らかの薬物療法が必要です。肺がんにおける薬物療法に関しては、新しい分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬など目覚ましい進歩があります。
また副作用を軽減した、治療効果の高い放射線治療の技術も大きく向上しています。優秀な治療成績があり豊富な経験を持つスタッフを配置した呼吸器内科、放射線科との緊密なチームワークで、肺がん治療成績の向上にあたっています。
このように肺がんに対して隙間なく、広い領域にわたって治療を行うことで、患者さんに寄り添った、あきらめない治療をモットーとしています。
当科の特色 呼吸器外科
当科は、気管支鏡による内視鏡治療から、手術による外科的手術(縮小手術や拡大手術も含む)を幅広く行っています。また、呼吸器内科や放射線科との合同カンファレンス(検討会)を行い、科学的根拠に基づいた最新の治療を提供します。さらに、インフォムドコンセント(説明と同意)をしっかり行ったうえで、患者さん一人ひとりに適切ながん診療を提供します。
更新:2025.12.12
