膵臓がんの外科的治療

日本医科大学付属病院

消化器外科

東京都文京区千駄木

膵臓がんの外科的治療

膵臓がんとは?

膵臓(すいぞう)がんは、膵臓の膵管上皮細胞から発生したがんです。診断と治療がとても難しいがんで、診断がついた時点で手術できる患者さんはわずか約20%に過ぎません。また切除できても術後の再発率が高く、術後の5年生存率は20~40%と良くありません。2022年の「人口動態統計(確定数)」によると、日本人の膵臓がんによる死亡数は、男性では肺がん、大腸がん、胃がんに次いで多く、女性では大腸がん、肺がんに次いで多くなっています。膵臓がんは高齢者に多いため、高齢社会の進行に伴って、近年患者さんの数は増加しています。

膵臓がんの症状

膵臓は、がんが発生しても初期では症状が出にくく、早期発見は簡単ではありません。進行してくると、腹痛、体重減少、食欲低下、黄疸(おうだん)(皮膚や目が黄色くなる)、腰や背中の痛みなどが起こります。

そのほか、急に糖尿病が発症したり悪化したりすることがあり、膵臓がんが見つかるきっかけになることもあります。

膵臓がんの進行度(ステージ)

膵臓がんの病期(ステージ)は4期に分類されます。1期と2期は切除可能、3期と4期は切除不能です。

1期:
膵臓内に限局(※1)し、リンパ節に転移していない
作業療法:
1期:
腫瘍(しゅよう)の一部が膵臓外に出る。リンパ節転移がなければ2A期、転移があれば2B期
3期:
腹腔(ふくくう)動脈または上腸間膜(じょうちょうかんまく)動脈にがんの浸潤(しんじゅん)(広がり)を認める
4期:
肝臓、肺、腹膜(ふくまく)、大動脈周囲リンパ節などへの遠隔転移を認める

※1 限局:病変が狭い範囲に限られている

膵臓がんに対する治療法と手術

●治療法
膵臓がんに対する治療法には、手術と化学療法(抗がん剤治療)の2つの方法があります。比較的早期であるステージ1・2期の膵臓がんには手術を行い、進行したステージ3・4期の膵臓がんには化学療法を行います。
●手術
がんが膵臓の頭部(膵臓の頭のほうの部分)にある場合は、膵頭十二指腸切除術を行います(図1)。この手術では、膵頭、十二指腸、小腸の一部である空腸、胆嚢(たんのう)、下部胆管と、周辺のリンパ節を切除します。これらの臓器を切除したあと、残った臓器と臓器をつなぎ合わせます。
がんが膵臓の体部(真ん中あたり)、尾部(細くなっている部分)にあった場合は、膵体尾部切除術を行います(図1)。この手術では、膵体尾部とともに、脾臓(ひぞう)や、脾臓に酸素や栄養を送る脾動脈という血管も周辺リンパ節とともに切除します。
膵臓がんが全体に広がっている場合は、膵臓をすべて摘出する膵全摘術を行うこともあります。
図
図1 膵臓がんに対する手術

補助療法と膵臓がんに対する低侵襲手術

補助療法とは、手術の効果をさらに高めるために手術の前後に行われる化学療法や放射線療法のことです。膵臓がんでは、術前補助化学療法と術後補助化学療法があります。

●術前補助化学療法
切除可能な膵臓がんに対しては、ゲムシタビンとテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤という2種類の抗がん剤を併用するGS療法を術前に約2か月間行います。切除可能境界膵臓がんに対しては、ゲムシタビンとナブパクリタキセルという2種類の抗がん剤を併用するGnP療法、オキサリプラチン、イリノテカン塩酸塩水和物、フルオロウラシルという3種類の抗がん剤にフルオロウラシルの効果を増強するレボホリナートカルシウム水和物を加えたフォルフィリノックス(FOLFIRINOX)療法などを術前に行います。
化学療法を行う期間は決まっていませんが、2~4か月のことが一般的であり、さらに長く行うこともあります。術前補助療法として、化学療法に加えて放射線療法が行われることもあります。
●術後補助化学療法
膵臓がんの切除後に、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤を約半年間服用してもらいます。

近年の新規抗がん剤の登場により、膵臓がん治療は大きく変化しています。その中で外科治療の持つ役割は、集学的治療(※2)の1つとして最適のタイミングで最小限の侵襲(しんしゅう)(体の負担)により、確実に必要最小限の切除を行うことです。

現在、低侵襲手術として腹腔鏡下手術やロボット支援下手術が消化器がん領域で多く行われていますが、当院では多くの低侵襲膵切除術を施行しており(図2)、膵臓がんにおいても積極的に行っています。

図
図2 当科で施行した低侵襲膵切除術446件の内訳
(2004年1月~2024年3月)

※2 集学的治療:化学療法との組み合わせ

更新:2025.12.12

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