脂質異常症とはどんな病気? ——遺伝性、難病の脂質異常症ではないですか?——
日本医科大学付属病院
糖尿病・内分泌代謝内科
東京都文京区千駄木

脂質異常症とは?
脂質とは、体の油分のことです。脂質は細胞膜の構成成分として存在したり、内臓脂肪としてエネルギーを蓄えたり、ホルモンを作る元になったり、血液中を循環して細胞にエネルギーを届けたりと、さまざまな役割を持っています。
脂質は生体に必要な成分ですが、血液中の脂質の代謝に異常が起こっている状態は、脂質異常症という病気です。具体的には、LDL-C(悪玉コレステロール)が高い、HDL-C(善玉コレステロール)が低い、トリグリセライド(中性脂肪)が高い、など血液中の脂質に異常がある場合に、脂質異常症と診断します。
脂質異常症の治療はなぜ必要なのか
脂質異常症は、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)などの動脈硬化(どうみゃくこうか)性疾患を引き起こします。動脈硬化とは、血管の壁に脂質が蓄積したり、高血圧の影響やカルシウムの沈着などで動脈が硬くなったりする現象です。動脈硬化が進んだ血管は、狭くなり血液が流れにくくなる、詰まるなどし、心筋梗塞、脳梗塞が起こります。動脈硬化性疾患は現在、国内の総死亡の約23%を占める重篤な病気です(図1)。

(厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」統計表・第6表をもとに作図)
脂質異常症は、長年の経過により動脈硬化を進行させますが、早期に改善することで心筋梗塞や脳梗塞などの発症の予防ができます。また適切な治療により動脈硬化の改善も期待できます。健康診断などで脂質異常症を指摘された際、そのとき症状がないからと何年もそのままにしていると、動脈硬化が進行し心筋梗塞など命にかかわる病気を起こす可能性があります。脂質異常症を指摘された場合、動脈硬化性疾患の進行度と危険性を確認し、脂質異常症の治療方法を選択していきます。心筋梗塞、脳梗塞などの重大な病気を予防するためには、早期診断、早期治療が重要です。
●脂質異常症の診断基準
脂質異常症は空腹時採血でLDL-C140mg/dL以上、トリグリセライド150mg/dL以上、HDL-C40mg/dL未満で診断されます。2022年からは、食事をとったあと(随時)の採血でトリグリセライド175 mg/dL以上を指摘された場合も、脂質異常症の診断となります(表1)。

(日本動脈硬化学会編『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』日本動脈硬化学会、2022年より引用)
原発性脂質異常症とは―リスクの高い脂質異常症―
脂質異常症には、体質や遺伝が原因で発症する原発性脂質異常症と、脂質異常症をきたす病気や薬、生活習慣が原因で発症する二次性(続発性)脂質異常症があります。原発性脂質異常症は、若いときから脂質異常症が継続するため、動脈硬化のリスクが二次性よりも高く、早期発見、早期治療が重要です。
脂質異常症の家族が多く、心筋梗塞を若い時期(男性55歳未満、女性65歳未満)に発症した人が家系にいる場合などは、原発性脂質異常症の可能性があるため、専門医の受診が推奨されています。特に原発性高カイロミクロン血症、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)、LCAT欠損症、シトステロール血症、タンジール病、脳腱黄色腫(のうけんおうしょくしゅ)症、無βリポ蛋白(たんぱく)血症は、厚生労働省の指定難病であり、専門家のもとで診断、治療方針を決定することが望ましいです(表2)。

(日本動脈硬化学会編『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』日本動脈硬化学会、2023年より引用)
脂質異常症―最新の治療―
家族性高コレステロール血症は、主にLDL受容体の異常が原因となり、LDL-C(悪玉コレステロール)が著しく上昇します。一般的に脂質異常症の治療薬として使用されるスタチンでは、LDL-Cが十分に低下しない場合があり、LDL-C を低下させるために、PCSK9阻害薬や、MTP阻害薬、LDLアフェレシスなどの治療を開始すべきか専門的判断が必要となります。現在、脂質異常症低下薬はさらに新規の薬剤が開発されており、これまでの治療で十分に脂質が低下しなかった場合も、目標値に到達する可能性があります。

糖尿病・内分泌代謝内科
当科は、動脈硬化学会で認定された動脈硬化症の専門医が在籍する認定施設です。必要に応じて、遺伝子検査などにより、遺伝子の変異で起こる難治性の原発性脂質異常症を診断し、最新の治療で脂質異常症の改善を行っています。
そのほか、糖尿病に合併する脂質異常症、肥満に関連する脂質異常症、脂質異常症の治療薬を副作用のために服用できないスタチン不耐症などでお悩みの方に、適切な治療の提供に努めています。
診療実績
家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)、重症ヘテロ接合体、原発性高カイロミクロン血症、スタチン不耐症など、脂質異常症の中でも重症度の高い病気や、難治性の病気の診断を行い、積極的に最新の治療をしています。
更新:2025.12.12
