早期がん(食道・胃・大腸)を内視鏡で治す

済生会吹田病院

消化器内科

大阪府吹田市川園町

食道・胃がんに対する内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剥離術)

消化管のがんは、早期の段階で見つかれば内視鏡で完治することができます。内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)(ESD)という手技を使って、従来の粘膜切除術(EMR)では切除が難しかった病変も、内視鏡で治癒切除できるようになりました。ここでは食道・胃・大腸がんの内視鏡治療について説明します。

内視鏡治療で完治するかは、がんの深さ(深達度)や大きさ、がんの種類などで決まります。治療の前に内視鏡で病変を詳しく観察します。色素拡大観察や、NBIやBLIなどの画像強調拡大観察、超音波内視鏡などを施行し、内視鏡治療の適応かどうかを診断します。

食道がん、胃がんの内視鏡治療の多くは内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という手技で行います。ESDは病変周囲を切開し、さらに粘膜下層を剥離(剥(は)がしていく)して切除する方法です。がんの周囲に高周波でマーキング(図1a)をし、生理食塩水やヒアルロン酸を粘膜下層に注入、周囲をITナイフなどの処置具を用いて切開(図1b)、がんより深い層(粘膜下層)を丁寧に剥離します(図1c)。切除した標本(図1d)は、顕微鏡で検査をし、転移・再発の危険がないことを確認します。入院は約1週間ほどです。

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図1 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・胃

食道がんでは、粘膜上皮(EP、LPM)にとどまっている場合は、転移がほとんどないとされており、内視鏡で治すことができます。大きな病変でも口側をクリップでけん引するなど工夫をし、安全に内視鏡で切除することが可能になりました。

胃がんでは、内視鏡で一括切除できるものとして、これまでは2㎝以下の粘膜内がんと診断される分化型がんで、潰瘍(かいよう)のない病変を適応としていました。ESDの方法を用いると、大きいがんも技術的に切除できます。転移がほぼないとされている一定の基準を満たせば、2㎝以上の病変も内視鏡治療の適応になります(胃癌治療ガイドライン)。また2㎝以下の未分化型がんも内視鏡で切除しています(適応拡大病変)。適応拡大病変は、臨床研究段階ですが、転移の可能性がほぼないことが検証されています。これまで外科手術を行っていた病変も内視鏡治療で切除できる症例が増えました。当院では、適応拡大病変も治療をしており、良好な成績を得ています。内視鏡治療の治癒基準を満たしていなければ追加外科手術が必要です。

大腸ポリープ・がんの内視鏡治療

大腸内視鏡で大腸ポリープやがんの診断、治療を行います。前日から下剤を飲み、当日は約2ℓの腸管洗浄液を飲んで大腸をきれいにする前処置が必要です。

大腸ポリープは、ほとんどが腺腫(良性の腫瘍(しゅよう))や過形成性ポリープなどの良性のものですが、腺腫でも6㎜を超えるとポリープの一部ががん化する頻度(ひんど)が高くなり、がん化率は大きさと関連するといわれています(大腸ポリープ診療ガイドライン)。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、生理食塩水をポリープの根元に注入し、ワイヤー(スネア)でポリープを絞扼(こうやく)し、通電して切除する方法です(図2)。がんが疑われる側方発育型腫瘍(平坦で横に広がる腫瘍)や一括切除が望ましい腫瘍は、病変周囲を切開して粘膜下層を剥離する方法、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います(図3)。早期大腸がんの内視鏡治療の適応は、転移のほとんどない、粘膜がんと粘膜下層軽度浸潤(しんじゅん)がんです。内視鏡で色素や拡大観察を用いて詳しく観察し、粘膜下層に深く浸潤している所見がなければ、EMRやESDの手技で切除します。切除した標本は顕微鏡で検討し、転移のないがんの基準を満たしていることを確認します。当院では、外来で内視鏡検査と同時にポリープ切除(外来手術)をしています。大きいポリープや平坦な腫瘍は入院して治療します。

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図2 内視鏡的粘膜切除術(EMR)・大腸
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図3 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・大腸

内視鏡治療で治すためには早期発見が重要

がんが転移の可能性がある段階まで進んでしまうと、内視鏡切除で治すことはできません。内視鏡による早期発見が重要です。特に、がんのリスクのあると思われる人は内視鏡検査を受けてください。

食道がんでは喫煙や飲酒がリスクになります。胃がんでは、除菌後も含め、ピロリ菌感染がリスクになります。自治体によっては内視鏡による検診も検討されています。大腸がんでは、肥満、飲酒、大腸がんの家族歴などがリスクとされています。血便や腹痛などの症状がある人は内視鏡検査を、症状がなくても便潜血検査は毎年の受診をお勧めします。

更新:2024.10.29