がんは遺伝子の病気ですが、遺伝子がすべてではありません

済生会吹田病院

消化器内科

大阪府吹田市川園町

がん遺伝子について

がんの多くは持続する炎症、生活習慣、環境などが誘因・原因になり発症しますが、その発症・進展に遺伝子(gene)・ゲノムが関係しています。ヒトのゲノム中には約2万5000種類の遺伝子が存在し、種々の機能を発揮しています。ほぼすべてのがんは遺伝要因と環境要因とが合わさって発症します。

ヒトの疾患は、遺伝の面からMendel遺伝病(先天性の疾患はこれに該当し、遺伝子異常のみで発症する)、多因子遺伝病(がん、糖尿病などの生活習慣病がこれに該当)と交通事故など遺伝子とは関係ない疾患の3種に分けられます。

ヒトの生命活動に必要な情報は、DNAあるいはRNAといわれる核酸に暗号として存在(アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の塩基)しています。このゲノムDNAは安定した存在ではなく、炎症や生活習慣などで簡単に傷がつきます。一般の集団で1%以上の頻度(ひんど)で存在するDNA配列の変化を多型(polymorphism)といい、一塩基多型(single nucleotide polymorphism/SNP)はその一種です。ヒトのゲノムには1000万か所以上のSNPがあり、種々の病気の発生や薬の効果を左右するSNPが存在しています。すなわち、ある種のがんにかかりやすい、ある種の薬に効きやすい、あるいは効きにくいということにSNPが関係しています。

がん遺伝子の活性化にはゲノムのコピー数の増加する遺伝子増幅、染色体転座・逆位などによる遺伝子再構成、点変異などを含む遺伝子内変異などがあります。

1980年代から膵臓(すいぞう)がん、肺がん、大腸がんなどにおけるKRAS遺伝子の点突然変異、乳がんにおけるERBB2(HER2)遺伝子の増幅、白血病におけるABL遺伝子の染色体転座による再構成などが発見されましたが、最近は高速シークエンサーを用いた全ゲノム/エクソン/RNAシークエンシング解析により、新たながん遺伝子が次々と発見されています。「表1」にヒトがんでゲノム異常がみられる主ながん遺伝子を、「表2」にヒトがんで失活変異(遺伝子本来の働きを失うような変異)のみられる主ながん抑制遺伝子を記載しました。

表
表1 ヒトにおいてゲノム異常がみられる主ながん遺伝子
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表2 ヒトがんで失活変異のみられる主ながん抑制遺伝子

私が専門とする肝臓の分野では、肝硬変(かんこうへん)からは高率に肝がんが発生しますが(特にC型肝硬変)、長年フォローしても肝がんが発生しない人もいます。生活習慣病に伴う肝疾患である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も肝硬変になると年率1~2%発がんしますが、これには「PNPLA3」と「DYSF」という遺伝子が関与しています。両者ともに危険なタイプの遺伝子(risk alleleという)を持っている人は、普通の遺伝子を持っている人に比べて40倍も高く肝がんが発生する危険性を有していることを、私たちは世界で初めて明らかにしました。

当院では希望すれば、この遺伝子(SNP)の検査を無料で行っています。

更新:2024.01.26