下肢の循環障害とフットケア

済生会吹田病院

心臓血管外科

大阪府吹田市川園町

末梢動脈疾患(PAD(ピーエーディー))による虚血性障害(図1)

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図1 末梢動脈疾患(PAD)/右第1・3・4・5趾に黒色壊死、潰瘍を認めます。第2趾は切断後

末梢動脈疾患(PAD)とは、動脈内にコレステロールが溜(た)まって血管が狭くなったり、詰まったりして、下肢(かし)の血流が悪化する疾患です。症状はフォンテイン分類(Ⅰ度/症状なし、Ⅱ度/間歇性跛行(かんけつせいはこう)(*)、Ⅲ度/安静時疼痛(とうつう)、Ⅳ度/潰瘍(かいよう)、壊死(えし))で分けられ、視診で色調変化を確認し、皮膚温・動脈拍動の触知、ドップラー血流計での聴診を行い、さらに足関節/上腕血圧比(ABI(エービーアイ))を測定し、0.9以下なら血行障害ありと診断します。透析や糖尿病症例では、動脈の石灰化のためにABIが高値となるので注意が必要です。治療としては、①軽症~中等症例(Ⅱ度まで)は、禁煙、抗血小板剤の内服、運動療法を行い、②Ⅱ度の保存療法無効例や重症虚血肢(Ⅲ・Ⅳ度)は血行再建を行います。

その方法としては血管内治療(EVT(イーブイティー))とバイパス術があります。EVTでは、局所麻酔下に風船付カテーテルでの血管拡張やステント留置を行い、バイパス術は、狭くなったり詰まったりしている病変の上下で、人工血管や自家静脈を用いて新しい道路(血管)を作成します。通常、全身麻酔が必要です。

基本的には体への負担が少ないEVTを優先して行い、症状が改善しない場合や脚の付け根・膝(ひざ)という、ステントを留置してはいけない屈曲部に病変がある場合は、バイパス術を行う方針としています。血行再建が不可能な例では、血管拡張剤投与や人工高炭酸泉足浴を行いますが、救肢できない場合には下肢切断を検討することになります。重症虚血肢は血行再建を行った後も壊死組織の切除(デブリードマン)や局所陰圧閉鎖療法を行って、創(きず)治癒をめざします。

静脈疾患による静脈うっ滞性障害(図2)

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図2 静脈うっ滞/両下肢静脈瘤と右下腿に腫脹・色素沈着・潰瘍、左下腿に色素沈着を認めます

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)

下肢の静脈には、皮下脂肪の中を走る表在静脈と筋肉の中を走る深部静脈があり、筋肉の収縮と多数の逆流防止弁で表在静脈から深部静脈へ、足先から心臓へと血液が流れています。弁が壊れると下半身に血が溜まるようになり、特に脚の付け根や膝の後ろにある深部静脈との合流部の弁が壊れると、表在静脈が蛇行して浮き出てきます。これが下肢静脈瘤です。症状としては足のだるさ、むくみ、夜中や朝方のこむら返り、かゆみなどで、進行すると湿疹ができて、皮膚が茶色くなったり、皮膚や皮下脂肪が硬くなったり、潰瘍が出現したりします。女性に多く(2~3倍)、長時間の立ち仕事や複数の出産歴のある人に多い傾向にあります。

基本的な治療は、弾性ストッキングや弾性包帯による圧迫療法で、起床時から寝る前まで継続します。また、長時間の立位や足を下垂(かすい)したままの座位を避け、足の背底屈や足踏みなどでふくらはぎの運動を行います。入浴後は保湿剤で乾燥を防ぎ、足を挙上(きょじょう)して寝ます。むくみ、皮膚炎や潰瘍など、症状が進行した静脈瘤は手術の適応です。高周波(ラジオ波)やレーザーでの血管内焼灼術(けっかんないしょうしゃくじゅつ)や抜去術、瘤切除を組み合わせて行います。軽症例は硬化剤を血管内に注入する硬化療法を行います。

深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)(DVT)

深部静脈内に血栓ができる疾患で、血栓が飛散すれば肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)を発症し、時に致命的となります。突然の片側の下肢の腫(は)れで発症することが多く、さらに発赤(ほっせき)、疼痛、熱感などが出現します。原因は静脈壁障害、血液凝固能亢進、血液停滞であり、危険因子として肥満や妊娠、外傷、先天性凝固異常、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)、高脂血症、長期臥床(がしょう)(*)、手術、ホルモン剤内服などがあります。血液検査で疑われたら、静脈エコー検査や造影CT検査で血栓の有無と範囲、急性か慢性か、可動性の有無などを検索します。

急性期は、直ちに血栓の伸展を抑える抗凝固薬を注射した後に持続投与を行い、その後、内服の抗凝固薬に切り替えます。抗凝固療法は一時的な原因の場合は3~6か月、危険因子が長期間存在する場合や複数回の再発をきたした場合は長期に内服を継続する必要があります。また、急性期を過ぎたら、弾性ストッキングによる圧迫療法を開始します。

慢性静脈不全

深部静脈の弁不全による逆流や、筋肉ポンプ機能低下による静脈うっ滞、圧上昇が原因です。静脈閉塞や弁破壊のある深部静脈血栓症慢性期、進行した下肢静脈瘤も同様の状態になります。治療は圧迫療法、長時間の立位や下垂座位回避、ふくらはぎの運動励行です。

*間歇性跛行/しばらく歩くと痛みのために歩行が困難になるが、少し休むとまた歩けるようになる
*臥床/床について寝ること

更新:2022.03.08