炎症性腸疾患ってどんな病気?

浜松医科大学医学部附属病院

消化器内科

静岡県浜松市東区半田山

炎症性腸疾患とは?

炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)(IBD:Infl ammatory Bowel Disease)とは、免疫機能が異常をきたし、自分の免疫細胞が、小腸や大腸に炎症を起こしてしまう病気のことです。主に潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とクローン病の2種類を指します。下痢や血便、腹痛などの症状で発症します。

比較的若い方に発症しやすい一方で、高齢の方にも発症することがあり、患者数は年々増加傾向にあります。近年、新しい治療薬が次々登場しており、長期のコントロールができるようになってきました。

炎症性腸疾患の原因と症状

炎症性腸疾患の主な病気である潰瘍性大腸炎もクローン病も、はっきりとした原因はわかっていません。遺伝や環境因子、腸内細菌の異常などがかかわり、免疫系に異常をきたすことで発症すると考えられています。

20歳代までに発症することの多い病気ですが、潰瘍性大腸炎は、近年高齢の方の発症も見られ、年々増加しています(図1)。

グラフ
グラフ
図1 炎症性腸疾患の医療受給者証交付件数の推移
(上:潰瘍性大腸炎、下:クローン病)
(難病情報センターホームページ〈2022年8月現在〉から引用)

潰瘍性大腸炎はほぼ大腸のみに起こる一方で、クローン病は口から肛門までの消化管すべてに炎症が起こります。そのため、炎症性腸疾患のタイプによって症状の出方は異なりますが、主に腹痛や下痢、血便などを発症することが多いです。

また再燃と寛解(かんかい)(症状が良くなったり悪くなったりすること)を繰り返すことも特徴で、診断がつくまでに時間がかかることも少なくありません。

炎症性腸疾患の検査

炎症性腸疾患の診断や適切な治療を行っていくためには、小腸と大腸の粘膜の状態を確認することが大切です。

●下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)
潰瘍性大腸炎において最も一般的な検査です。大腸と小腸の一部が観察可能で、粘膜の状態を確認します。特に、発症後7~8年を経過すると、がんの発生リスクが上がるといわれており、大腸カメラは欠かせない検査となっています。
●バルーン内視鏡検査(図2)
先端に風船のついた内視鏡で、主に小腸を観察するために行います。クローン病の患者さんで、小腸の状態を確認したいときに行います。

図
図2 ダブルバルーン内視鏡
●カプセル内視鏡検査
長径2㎝ほどのカプセル型の内視鏡です。スコープを使用することなく、全小腸を観察することができます。また最近では、大腸用のカプセル内視鏡も登場しており、通常の大腸カメラでの検査が難しい方に行うことがあります。

そのほか、血液検査、便検査、CT検査などを行うことがあります。

炎症性腸疾患の治療

炎症性腸疾患は、主に内科的治療が行われます。しかし、重症となったり、内科的治療でのコントロールが難しくなったりした場合は、外科的治療が選択されることがあります。

内科的治療で使用される薬剤には、次のものがあります。

●5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)
口や直腸から投与され、持続する炎症を抑える薬剤で、特に潰瘍性大腸炎で有効な薬です。
●副腎皮質ステロイド薬
主にプレドニゾロンという薬剤が、中等症から重症の患者さんに用いられます。最近では、肝臓(かんぞう)で速やかに分解されるブデソニドという新しいステロイドを使った製剤も使われています。
●血球成分除去療法
透析(とうせき)と似た技術を用いて、血液中から異常に活性化した白血球を取り除く治療法です。
●免疫調節薬
ステロイドを中止すると悪化してしまう患者さんや、ステロイドが無効となった患者さんに対して、免疫を抑えることを目的として使用します。
●生物学的製剤
炎症のもととなるTNF-αやIL(インターロイキン)を抑える薬剤、免疫細胞の表面にある物質に作用して炎症を起こす物質の産生を抑える薬剤、炎症細胞が腸の粘膜に侵入するのを防ぐ薬剤などがあります。

2022年6月現在、潰瘍性大腸炎では7種類、クローン病では4種類が使用できるようになっています。生物学的製剤には内服、注射があり、病状や生活スタイルに合わせた薬剤を選択し、使用します。

更新:2023.10.26