進化する膀胱がんの診断と治療

札幌医科大学附属病院

泌尿器科

北海道札幌市中央区

膀胱がんとは

膀胱は、腎臓(じんぞう)で作られた尿を貯留し、必要に応じて排出する臓器です(蓄尿・排尿)。膀胱がんは、膀胱の内面を覆う尿路上皮から発生します。男性患者が女性患者より2~3倍多く、喫煙が最も重要な危険因子です。痛みを伴わない無症候性の肉眼的血尿は膀胱がんの重要なサインですので、1回でも無症候性の肉眼的血尿があれば泌尿器科への受診をお勧めします。

膀胱がんの診断

膀胱がんは、がんが尿路上皮やその直下の結合組織にとどまる筋層非浸潤(きんそうひしんじゅん)がんと膀胱の筋肉あるいは筋肉を越えて進行する筋層浸潤がんに分けられます。筋層非浸潤がんと浸潤がんでは治療法と予後(*1)が異なるため、これらの鑑別は非常に重要です(図1)。

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図1 筋層非浸潤性膀胱がんと筋層浸潤性膀胱がん

経尿道的膀胱腫瘍切除術(けいにょうどうてきぼうこうしゅようせつじょじゅつ)(尿道より内視鏡を膀胱内に挿入し、腫瘍を削り取る手術です)により組織を採取し、がんの顔つき(悪性度)とがんの深さ(深達度)を診断します。膀胱がんは1か所とは限らず、一見正常に見える尿路上皮にも発生するため、がんがあると光を発する薬を服用してもらって診断の精度を上げることもあります。

がんの悪性度が低い筋層非浸潤がんでは、経尿道的膀胱腫瘍切除術(+抗がん剤の単回膀胱内注入療法)だけで治療が終了することもあります。一方、がんの悪性度が高い筋層非浸潤がんでは、再発と進展(筋層浸潤がんへの移行)が問題となります。抗がん剤やBCG(弱毒ウシ型結核菌)を膀胱内に注入することで、再発と進展を抑えます。

*1 予後:今後の病状についての医学的な見通し

筋層浸潤がんの治療

筋層浸潤がんは、適切に治療を行わないと転移を起こして死に至る可能性のある病気です。治療の原則は、膀胱全摘術(図2)とリンパ節郭清(せつかくせい)(*2)です。手術の効果を最大限にするために、手術前に抗がん剤による全身治療を行うことが一般的です。膀胱全摘術の方法として、開腹手術、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術、ロボット支援下腹腔鏡手術があります。この順番に、出血量と体にかかる負担が減少します。当科では、がんの広がりや全身状態に応じて適切な手術法を選択しています。当科における膀胱全摘数は152件(2016~2020年)です。

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図2 膀胱全摘術

膀胱を全摘すると、蓄尿・排尿機能が失われてしまいます。このため、新しい尿の通り道(尿路変向)を再建する必要があります。がんの部位や腎臓の働きなどを考慮して、回腸導管や回腸新膀胱を選択します(図3)。

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図3 回腸導管と回腸新膀胱

回腸導管では、15cmの小腸に尿管をつなぎ、一端を腹壁にストーマとして出します。尿はお腹(なか)につけた集尿袋に溜まります。回腸新膀胱は55cmの小腸を細工して袋状の人工膀胱を作り、袋の下端を尿道につなぎます。お腹に力を入れることで、自然排尿が可能になります。当科では生活の質を維持した尿路変向術に力を入れています。

*2 リンパ節郭清:手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること

転移性膀胱がんの治療

転移性膀胱がんに対しては、抗がん剤を使用した全身治療を行います。抗がん剤が効かなくなった人、あるいは、抗がん剤の副作用でこれが続けられなくなった人に対しては、免疫チェックポイント阻害薬による治療を行います。最近では、抗がん剤がある一定程度の効果を示した人に対して、引き続き免疫チェックポイント阻害薬を使用することで予後の改善を図っています。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫細胞はがん細胞を攻撃して破壊します。これをがん免疫といいます。一方、がん細胞もみすみす殺されたくないので、免疫細胞にブレーキをかけて破壊から逃れようとします(免疫逃避)。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを外すことにより、免疫細胞によるがん細胞攻撃力を復活・増強させる薬です。

更新:2024.09.23

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